植物工場における光エネルギーの最適配分は、生産性と品質の双方を規定する主要因であり、限られた電力条件のもとで「収量」と「機能性成分」を同時に高める設計が求められている。
東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、サニーレタスを対象に、生育段階ごとに遠赤色光の照射条件を切り替える手法を検証し、収量増加と品質保持を同時に満たし得る光レシピを報告した。本成果は、常時照射ではトレードオフとされてきた遠赤色光の利用を段階的に再設計するものであり、光波長の用途分担を明確化する知見として位置づけられる(掲載誌:Annals of Botany)。
本研究では、植物工場の実運用に近い環境下で、白色光(400–700 nm)を一定条件で照射しつつ、遠赤色光(700–750 nm、100 µmol m⁻² s⁻¹)の投入時期を4条件で比較した。生育前半に遠赤色光を付加した条件では、葉の展開が促進されキャノピー構造が拡大し、光獲得効率の向上が確認された。とくに、生育期間を通して連続的に遠赤色光を照射した場合は、上面積・側面積の双方が増大し、生育初期の形態形成が光合成の持続的向上に寄与することが示された。また、測定時に遠赤色光を補光すると光合成速度が白色光のみの場合よりも高まり、遠赤色光が直接の主光ではなく白色光の作用を補助する光として機能する可能性が示唆された。
一方で、遠赤色光を生育後半まで継続した条件では、アントシアニンやアスコルビン酸などの機能性成分が低下する傾向が確認された。これに対し、生育前半4週間で遠赤色光を用い、収穫前に白色光のみに切り替えた条件では、収量増加と機能性成分の維持が両立し、関連遺伝子の発現量も高い水準で保持された。生育指標と品質指標を統合的に評価した結果、この段階的制御が最もバランスに優れることが示され、遠赤色光の「常時光」から「生育段階に応じて使い分ける光」への再定義が裏付けられた。
本成果は、照明機器の大規模更新や複雑な制御を伴うことなく、既存の白色光環境に遠赤色光の投入時期を組み合わせるだけで、植物工場における生育・品質の両面を改善できる可能性を提示した知見である。今後は、作物種・品種・栽培密度に応じて最適な遠赤色光制御法の精緻化が求められ、光環境設計の選択肢を拡げる基礎データとして活用が進むと考えられる。