東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループは、赤色レーザーダイオード(LD)を用いた植物栽培において、従来の発光ダイオード(LED)を上回る成長促進効果を世界で初めて実証した。LDは極めて狭い波長帯域で発光する特性を持ち、植物の光合成色素クロロフィルの吸収ピークに高精度で一致する光を供給できる。この特性が、光合成効率の最大化と植物の健全な成長に寄与することが明らかとなった。
研究では、タバコ、シロイヌナズナ、レタスの3種を対象に、赤色LD(660 nm)と赤色LED(664 nm)を用いた比較実験を実施。LD照射群では、光合成速度がLED群より約19%高く、光化学系IIの実効量子収率(Y(II))や反応中心の活性度(qL)も有意に高かった。さらに、12日間の連続照射実験では、LD照射によって乾燥重量や葉面積がいずれの植物種でも大きく向上し、葉の黄化や光阻害といったストレス症状も抑制された。
LDは、クロロフィルの吸収に最適な波長を高精度で出力できるだけでなく、小型・軽量でエネルギー効率に優れ、光ファイバーを用いた柔軟な照射配置も可能である。これにより、植物工場や閉鎖型環境、さらには宇宙空間での栽培といった先端的な農業システムへの応用が期待される。
本研究は、これまで注目されてこなかったLDを植物栽培に本格的に導入し、その有効性を体系的に示した初の成果である。今後は、青色LDとの組み合わせや多様な作物への応用、長期栽培における影響評価などを通じて、持続可能な農業の実現に向けた技術開発が進められる見通しである。研究成果は、2025年5月20日付で国際学術誌『Frontiers in Plant Science』に掲載された。