食品の製造や流通、消費などに伴って発生する食品廃棄物のリサイクルは、食品リサイクル法の施行により一定の成果が得られたものの、食品小売業や外食産業での取り組みが遅れていたため、2007年に同法が改正され、規制が強化されました。これを受けて、従来からあった、食品廃棄物を飼料や肥料にリサイクルするための技術やシステムがあらためて注目されるとともに、新たな技術の開発とその実用化が進みつつあります。食品リサイクル技術の動向について、制度や基本的な知識を交えて紹介します。
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食品廃棄物は、食品の製造や流通、消費などの各段階で発生する動植物性の残さ(残りかす)のことで、食品循環資源とも呼ばれます。食品廃棄物には、大きく分けて、加工食品の製造や流通などの過程で生ずる売れ残りの食品や、それが売られる消費段階での食べ残し、調理くずなどがあります。
食品廃棄物は、図1のように、食品製造業から発生するものは産業廃棄物(以下、産廃)に、一般の家庭や食品流通業、外食産業などから発生するものは一般廃棄物(以下、一廃)に分けられます。環境省の「平成19年版 環境白書・循環型社会白書」によると、2004年度における食品廃棄物の発生量は1,939万トンで、内訳は産廃が339万トン、一廃が1,600万トンとなっています。このうち、460万トン(24%)が堆肥や飼料などにリサイクルされていますが、全体の76%に及ぶ1,479万トンは、焼却、埋立処分されているのが現状です。
図1 食品廃棄物の分類
(出典:「食品廃棄物の現状」環境省)
食品リサイクルの状況は、食品製造業から発生するものは組成が一定でまとめて排出されるためにリサイクルしやすく、表1のように、全体の78%に及ぶ265万トンがリサイクルされています。その内訳は、堆肥化(122万トン:36%)、飼料化(93万トン:27%)、油脂の抽出など(50万トン:15%)などとなっています。
また、食品流通業や外食産業などから発生するもののうち約3割にあたる165万トンがリサイクルされています。その内訳は、堆肥化(44万トン:8%)、飼料化(50万トン:10%)、油脂の抽出など(71万トン:13%)です。
表1 食品廃棄物の発生及び処理状況(2004年度)
(出典:「平成19年版 環境白書・循環型社会白書」環境省)
製造、流通、外食などの食品関連事業者による食品廃棄物の発生抑制と減量化を促し、リサイクルを進めるため、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(食品リサイクル法)が2000年に制定され、2001年に施行されました。食品リサイクル法は、主務大臣による基本方針の策定や、国によるリサイクル基準の策定、事業者の遵守規定などを定めています。
また、食品廃棄物を原材料とする肥料や飼料などの製造業者の事業場を登録する登録再生利用事業者や、再生利用事業計画の認定などの仕組みがあります。いずれも任意の制度で、登録や認定を受けなくても食品リサイクルに取り組むことはできますが、登録されると廃棄物処理法に関する特例措置など制度面でのさまざまな優遇措置を受けられます。
同法の施行により、リサイクル実施率の向上などある程度の成果がありましたが、食品廃棄物が少しずつ分散して発生する食品小売業や外食産業では、効率的なリサイクルが難しく取り組みの遅れが目立っています。また、爪楊枝や包装資材などの異物の混入も処理を困難にしています。
このため、2007年6月に同法が改正され、食品小売業や外食産業に対する指導監督の強化と、リサイクルの取り組みを円滑にするための措置が講じられました。この改正食品リサイクル法では、1)フランチャイズチェーン事業者を一体とみなして勧告の対象とするなど指導監督体制を強化、2)食品廃棄物等の年間発生量が100トン以上の多量発生事業者に対して発生量やリサイクル状況に関する定期報告を義務づけ、3)再生利用事業計画制度の見直しなどの改正が盛り込まれました(図2)。
図2 食品リサイクル法改正の概要
(出典:「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律の一部を改正する法律案の概要」(PDF)環境省 2007年3月1日報道発表資料)
3.主な食品リサイクル技術
食品リサイクル法の施行と改正により、食品リサイクル市場の動きが活発化し、関連技術・システムの開発も進んでいます。食品廃棄物のリサイクル技術には、さまざまな規模や方式によるものがあり、その基本は、1)発生抑制(Reduce)、2)リサイクル、3)熱回収、4)残ったものは減量処理を施して処分、という優先順位で行うことです。
リサイクルの手法としては、飼料を生産して畜産業者などで利用する飼料化、肥料を生産して農家などで利用する肥料化、油脂や油脂製品への利用、メタン利用などがあります。これに加えて、改正法ではリサイクルが困難な場合に熱回収を行うことができるようになりました。また、リサイクルできない食品廃棄物の減量化の手法として脱水、乾燥、発酵、炭化などがあります。
さらに、リサイクルや減量化の実施にあたっては、悪臭の発生や水質・大気汚染などの防止、廃棄物の発生抑制などの環境保全対策が求められます。
食品リサイクル手法の中でも利用の拡大が期待されている飼料化は、食品関連事業者から発生した食品廃棄物を、飼料として畜産や水産養殖用などに提供するものです。
飼料化を行う場合は、廃棄物の状態や成分により、一定の調整や処理を行う必要があります。一般的には、食品関連事業者から出された食品廃棄物は飼料化施設に運ばれ、そこで中間製品や飼料化の処理が行われます。中間製品では、飼料会社で飼料として製品化される場合と、飼料原料のまま供給されて利用者が他の飼料原料と配合して配合飼料として利用される場合とがあります。
図3 食品残さの発生と再生利用(飼料化)について
(出典: 「有機性資源の飼料化について」(PDF)農林水産省)
食品廃棄物の飼料化にあたっては、飼料安全法に基づく成分規格や製造基準を満たすことや、品質管理の徹底、事前試験による安全性・品質の確認などが必要です。また、食品廃棄物の収集運搬を委託する場合は業者が許可を受けていることを確認することが求められますし、飼料製造施設を設置する場合には、施設設置の許可基準や建築基準法などの関係法令、条例などを確認する必要があります。
こうした環境配慮は、飼料化だけでなく、ほかの方法でリサイクルを行う際にも必須となります。
食品リサイクルの中でも、広く普及し、一般にもよく知られているのが業務用生ごみ処理機です。業務用生ごみ処理機は、食品廃棄物を投入して減量化などの処理を行う機器で、比較的小型であるため、発生場所や集積所などで処理することが可能であり、中小規模の食品工場や流通業、外食産業などが食品リサイクルを実施する場合は、こうした業務用生ごみ処理機を使用する例が多くみられます。
業務用生ごみ処理機には処理方式によって、1)バイオ式、2)乾燥式、3)ガス式、4)その他の方式、などがあります。しかし、投入可能量についての考え方がメーカーによって異なるなどの問題があるため、生ごみ処理機メーカーなどでつくる業界団体の食品リサイクル機器連絡協議会は、食品関連事業者による機器選定に役立てるために、「業務用生ごみ処理機新性能基準」を2006年5月に作成、公表しています。
新性能基準は、汎用型の業務用生ごみ処理機の性能に関する表示項目や評価方法からなり、処理方式に関する表示についてはバイオ式と乾燥式に限っています。また、処理機本体以外に、脱臭装置や、破砕機などの前処理装置、排水処理槽などの後処理装置が必要な場合は、それらをすべて含んで性能表示を行うこととしています。
新性能基準の主な内容は図4の通りで、機器の性能に関する表示項目は、標準処理量や処理時間、消費電力、減質量率、ランニングコスト、騒音や臭気、給排水設備、安全対策など多岐にわたります。
図4 業務用生ごみ処理機新性能基準が定める主な表示項目など
(出典:食品リサイクル機器連絡協議会パンフレット(PDF))
今世紀に入り、食品リサイクルに関する新たな技術やシステムが開発され、実用化されています。2007年10月に環境省が決定した「食品リサイクル推進環境大臣賞」から、注目技術、システムを紹介します。
最優秀賞に選ばれた愛知県経済農業協同組合連合会による取り組みは、小売業者(スーパー)と再生利用事業者、そして農家(JA)が連携することにより、地域で食品リサイクルを維持・継続できる「リサイクル・ループ」を構築している点が高く評価されました(図5)。スーパーで発生した食品廃棄物は徹底して分別、計量され、冷蔵保管されて再生利用事業者に渡され、堆肥化されます。その堆肥を使用して農家が生産した野菜を、スーパーが全量購入して販売する仕組みです。
図5 愛知県経済農業協同組合連合会による「食品資源を活用した地域循環型農業の構築」
(出典:「食品リサイクル推進環境大臣賞 一覧」(PDF)環境省 2007年10月18日報道発表資料)
優秀賞に選ばれた「ロス計量システム」は、弁当・調理パンの生産ラインで発生する食品廃棄物を毎日計量・記録可能なシステムで、この導入によって、飼料化を中心としたリサイクル率で98%を達成しました(図6)。発生抑制の取り組みとして注目されます。
また、食品廃棄物を冷蔵車で回収した後、まず飼料化し、飼料化に向かないものを堆肥化し、いずれにも不向きなものをメタン化してエネルギー利用するさまざまなリサイクル手法を組み合わせたシステムも選ばれています。
図6 弁当・調理パン業界における「ロス計量システム」の導入事例
(出典:「食品リサイクル推進環境大臣賞 一覧」(PDF)環境省 2007年10月18日報道発表資料)
このほか、奨励賞として、メタン発酵施設とおから乾燥施設による食品リサイクルを環境共生型農園による堆肥化と組み合わせた事例や、グループ企業で発生した食品廃棄物をグループ内でリサイクルし、販売する取り組みなどが選出されました。
6.の注目事例に共通する評価点は、食品リサイクルについて画期的な技術を開発して運用していることはもちろんですが、それだけでなく、廃棄物の発生抑制やリサイクル後の販路確保など、食品廃棄物処理の川上から川下に至る流れをリサイクル・ループとして構築しているところです。
わが国では、食品廃棄物に限らず、さまざまなもののリサイクルの必要性が強調され、実践もされてきましたが、リサイクルしても利用先がない、小口で大量に発生する廃棄物を効率よく回収、リサイクルする仕組みの構築が難しいなどの理由から、軌道に乗らないこともありました。改正食品リサイクル法の下で、リサイクル・ループの構築を柱とした食品リサイクル技術やシステムが実用化されていくことが望まれます。
また、食品廃棄物などの有機系廃棄物をメタン発酵させて発生したバイオガスを、発電用燃料として利用する動きもあり、バイオエネルギーとしての利用も視野に入れる必要があります。
一方、環境省の「平成19年版 環境白書・循環型社会白書」によると、一廃系の食品廃棄物のうち家庭から発生するものが1,070万トンありますが、それらは多くの場所から少しずつ排出され、組成も雑多であるためリサイクルしにくく、全体の約3%にあたる30万トンしかリサイクルされていないのが現状です。家庭系食品廃棄物のリサイクルをどう実現していくかが大きな課題です。