九州大学は、演習林の観測データから越境大気汚染などの長期変化傾向を読み解けることを実証した。同大学は、福岡・宮崎、北海道に演習林を保有しており、森林における物質循環研究の一環として、2009年より雨水・渓流水を採取し、各種成分の沈着量や濃度を分析している。一方、1990年代以降、東アジアにおける「越境大気汚染」が顕在化したが、2010年代に入り中国の窒素沈着量は減少傾向に転じている。同大学は、窒素沈着量と渓流水中窒素濃度の経年変化を解析し、演習林の立地環境を活かした比較・検証を行った。その結果、福岡・宮崎の演習林では2010年代に窒素沈着量が有意に減少し、10年間でほぼ半減していることが明らかになった。また、福岡・宮崎演習林内の4渓流のうち、3渓流では窒素濃度が有意に低下傾向を示し、1渓流では有意に上昇傾向を示していることが分かった。これらの新知見により、西日本における越境大気汚染の影響が総じて減少していることや、窒素濃度が上昇傾向を示した流域における個別の環境問題(シカ食害・植生変化と物質循環の撹乱等)が示唆されたという。