福島大学を中心とする研究グループは、ブタと交雑したイノシシの遺伝子拡散状況を解明した。同研究グループは、母系遺伝をたどることができる「ミトコンドリアDNA」を分析することで、福島第一原発事故後に逸出、野生化したブタがイノシシと交雑し、ブタを母方の祖先とするイノシシが増加しつつあることを指摘してきた。今回、イノシシ個体群におけるブタ由来遺伝子の広がりを検証するために、ゲノムの大部分をコードしている「核DNA」の分析も行った。マイクロサテライト分析という手法を用いて、福島県大熊町・浪江町周辺で捕獲したイノシシの遺伝子の由来や構成を詳細に調査した結果、約16%の個体において祖先がブタと交雑した痕跡が認められ、ブタ由良遺伝子の多寡と原発(ブタの生息地)との距離関係が明らかになった。一方、ミトコンドリアDNAはブタ由来であるものの、核DNAではほとんどの遺伝子がイノシシに置き換わっている個体も確認された。この結果はブタを母方の祖先とするイノブタ・イノシシにおける「戻し交配」様の流れや、交雑の影響が減衰に向かう方向と、イノシシの高い移動性による遺伝子汚染の拡大を同時に示唆しているという。