国立環境研究所は、「日射量」の長期的な増加傾向が「一次生産」の増加につながっていることを実証した。生態学の分野では、生物がCO2から有機物を生産することを「一次生産」と呼んでおり、湖沼生態系では主に「植物プランクトン」が担い手となっている。一方、近年、エアロゾルの減少などによる日射量の長期的な増加傾向が全世界的に強まっている。同研究所は、茨城県つくば市では春季(5月)の日射量増加が顕著であり、同市の東に広がる「霞ヶ浦」では春の水温が上昇しつつある、と報告している(Shinohara R. et al., 2021)。また、長年の観測データ(1992~2019年)から、「霞ヶ浦」は春季の植物プランクトン量が多いということが分かっていた。今回、春の日射量増加により、「植物プランクトンによる光合成の速度(『一次生産速度』とも言う)」が影響を受けている可能性を確認するために、長期観測データに基づくモデル解析が行われた。霞ヶ浦では、当該期間中は毎月、「一次生産速度」が測定されてきた(測定法:13C法、測定回数:合計1,328回)。本研究では、地道な観測を通じて蓄積されたデータから「光合成速度(光—光合成曲線)」のモデルを作成し、他の要因(栄養塩、水中の濁り、水質など)とともに影響評価や、比較解析が行われた。その結果、日射量の増加に伴い、植物プランクトンの光合成速度は増加しており、とりわけ「湖心」では光の影響による増減が著しいことが明らかになった。1992年から2019年までの間、日射量の増加と水温の上昇が相まって、光合成速度は約13%増加していると試算された。また、日射量の増加等以上に、水質の悪化(窒素栄養塩濃度の増加)による変動が大きいことが示唆された。これらの新知見は、春の植物プランクトン増殖の予測はもとより、気候変動が湖沼に与える影響の解明に役立つという。