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 樹木のガスパイプライン!湿地土壌由来メタンの抜け道か? 京大など

発表日:2022.07.15


  京都大学、神戸大学および兵庫県立大学の共同研究グループは、「ハンノキ(学名:Alnus japonica)」の根にパイプライン様の空洞があり、「メタン(CH4)」ガスの放出に寄与している可能性が高いと発表した。ハンノキは日本全国の湿地などに分布する湿地性樹木で、その耐湿地性は幹から酸素を吸い込み、冠水している根に送り込む能力によって支えられている。一方、メタン(常温常圧下では気体、難水溶性)は有用なエネルギー源であるとともにCO2に次ぐGHGでもある。大気中に放出されているメタンの約40%は湿地などを起源としている。近年、湿地土壌の表面のみならず、「樹木を介して(樹木から直接)メタンが放出されている(以下『仮説』)」といった報告が相次いでおり、メタン収支見積や「植物学」の分野などで物議を醸している。同研究グループは、先進的な大気環境分析技術の応用と解剖学的なアプローチによって、仮説の裏付けや樹木のメタン放出メカニズムの理解に迫った。先ず京都⼤学桐⽣⽔⽂試験地(所在地:滋賀県大津市)の湿地における現場観測が行われた。同地に自生するハンノキの幹に専用チャンバーを取り付け、超高感度な半導体レーザーセンサーによるリアルタイム計測を行った結果、幹から大量のメタンが放出されていることを確認され、得られたデータから幹からのメタン放出量は季節性(夏に多く・冬は少ない)や、春から秋の明瞭な日変化パターン(昼は多く・夜は少ない)を有するという新知見を得ることに成功した。根の分析には光学顕微鏡と「クライオ⾛査型電⼦顕微鏡(cryo-SEM)」を併用した。試料の染色が不要で、⽔を含んだ⽣物試料の観察に威⼒を発揮するcryo-SEMを用いたことで、根の細部構造や養⽔分の有無などの詳細把握が可能となった。前出の“パイプライン様の空洞”とは、細い根の細胞や細胞組織の間にある「ミクロな隙間」を指している。「道管」のように養⽔分に満たされておらず、土壌に生息するメタン生成菌が作り出したメタンガスを幹に届ける、有力な経路のひとつであることが示唆された。本研究では、「明瞭な日変化パターン」と道管を通じて運ばれる養⽔分の量の⽇変化パターンがよく一致していることも突き止めている。養水分の流れ(樹液流)が関与する形で、今回見い出されたパイプライン中のメタンガス移動が進行すると考えられた。植物学的見地から多くの疑問を解き明かした成果であり、ミクロな視点が地球規模の課題解決につながることを示す典型的な研究であった、と結んでいる(掲載誌:New Phytologist、DOI:10.1111/nph.18283)。

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神戸大学 研究ニュース
機関 京都大学 神戸大学 兵庫県立大学
分野 地球環境
自然環境
水・土壌環境
キーワード メタン | メタン生成菌 | ハンノキ | Alnus japonica | 湿地性樹木 | 植物学 | 大気環境分析 | 桐⽣⽔⽂試験地 | クライオ⾛査型電⼦顕微鏡 | 樹液流
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