国立環境研究所を中心とする研究チームは、「空き地」の種多様性が百数十年前からの連続性(時間的要因)の影響を強く受けていることを明らかにした。国際的な約束である30by30の目標(2030年までに国土の30%を自然が良好に守られた場所にする)達成に向けて、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の重要性が増している。住宅地などに点在する「空き地」は小規模な草原とみなすことができる。OECMとして有望視されており、保全の目的化が喫緊の課題となっている。本研究は、草原性植物の多様性が3つの環境要因の影響を受けるという考え方に基づき、それらの相対的な重要性に関する理解深化を目的としている。3つの環境要因とは、局所的要因(空き地の面積、草刈り管理の有無)、空間的要因(各空き地に隣接する宅地と農地の割合、生育地周辺の草原面積の割合)、時間的要因(生育地の時間的な連続性)を指している。要因分析に当たり、千葉県北部を対象とする2つの調査が行われた。2014年の春季と秋季に実施した千葉県白井市に点在する空き地の植物調査(対象:36か所)では、植物タイプ(在来草原性植物、その他在来植物、外来植物)ごとの種数が把握された。また、千葉県北部の土地利用に係る調査では、1880~2000年代の長期にわたる土地被覆のデジタル化が行われた。これらのデータを統計解析するために新たな一般化線形モデル(GLM:Generalized Linear Model)が作成された。このモデルは3つの環境要因を説明変数とし、植物タイプごと種数を導出するものとなっている。モデルの当てはまり度合いを表す指標・AIC(Akaike’s Information Criterion)を基準とする解析を進めた結果、局所的要因と時間的要因が草原性植物の種数に有意なプラスの影響をおよぼすことが明らかになった。また、特定の種をベースとする分析を通じて、時間的要因のプラス効果が確認され、空間的要因が外来種の豊富さに関連していることが分かった。時間的要因の効果は、調査対象地域(千葉ニュータウン)が江戸時代に牧(馬の放牧地)が広く存在した地域であり、現在の空き地がその一部であることによって発現したと考えられた。草地としての“歴史の長さ”など、空き地および周辺の土地利用の履歴を考慮した生物多様性保全の計画づくりが求められる、と結んでいる。
情報源 |
国立環境研究所 報道発表
東邦大学 プレスリリース |
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機関 | 国立環境研究所 東邦大学 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 生物多様性保全 | AIC | 環境要因 | 一般化線形モデル | OECM | 30by30 | 白井市 | 空き地 | 草原性植物 | 千葉ニュータウン |
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