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 mTORC1(エムトークワン)、深海貝では“栄養共生の司令塔”として機能

発表日:2023.08.24


  海洋研究開発機構(JAMSTEC)と北里大学・福井大学ほか2大学の研究グループは、真核生物が普遍的にもっているタンパク質複合体・mTORC1(mechanistic/mammalian target of rapamycin complex 1)が、深海に棲息する貝と化学合成細菌の共生において重要な役割を果たしていることを突き止めた(世界初発見)。光が届かない(光合成生物が殆どいない)深海にもユニークな生物相が広がっている。深海生態系は資源開発の候補地と重なり合う場合も多く、そこに棲息する生物の理解を深めることが喫緊の課題となっている。同研究グループは、相模湾や沖縄トラフの700m以深で記録されているムール貝の仲間・シンカイヒバリガイ(Bathymodiolus japonicus)の生態把握に注力している。B. japonicusは熱水域やメタン湧水域で群集を形成している。消化管は持っているが餌を経口摂取しておらず、鰓(えら)細胞内に硫黄酸化細菌やメタン酸化細菌などの化学合成細菌(以下「細菌」)を共生させ、それらを栄養源としている。この「細胞内共生」は多くの謎に包まれている。先行研究では細菌を取り込み、定着させるプロセスや、共生する細菌と直接消化する細菌を選別していること等が明らかになっている(Tame, A. et al., 2022)。本研究では、B. japonicusを長期飼育する実験を軸に、鰓組織に築かれた「細胞内共生系」の構造や、栄養と細菌の盛衰などを詳しく調査している。今回新たに、細菌が細胞小器官の一種である「食胞」のように包み込まれていることが分かり、その表面がmTORC1を含む食作用や消化に関わる複数のタンパク質に覆われていることが確認された。染色画像や電子顕微鏡像の解析などをさらに進めた結果、mTORC1が食胞内の栄養を検知し、細菌の維持と消化を選択するメカニズムの存在が示唆された。B. japonicusと細菌が「1種対1種」の共生関係を築いている背景や、悠久の海洋環境下で起きたとされる生物進化(例:光合成能の獲得) の成り立ちに係わる新知見と言える(掲載誌:Science Advances、DOI:10.1126/sciadv.adg8364)。

情報源 海洋研究開発機構 ニュースルーム
北里大学 プレスリリース
福岡女子大学 新着情報
機関 海洋研究開発機構 北里大学海洋生命科学部 福井大学医学部 北海道大学低温科学研究所 福岡女子大学
分野 自然環境
キーワード シンカイヒバリガイ | タンパク質複合体 | mTORC1 | 化学合成細菌 | 深海生態系 | Bathymodiolus japonicus | 熱水域 | メタン湧水域 | 細胞内共生系 | 食胞
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