東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループは、植物が干ばつに耐える新たな仕組みを明らかにした。研究の中心となったのは「PATROL1」と呼ばれるタンパク質であり、これが根と葉の両方で植物の乾燥ストレス耐性を高める鍵となることが示された。
PATROL1は、これまで葉における気孔の開閉を制御し、光合成活性を調節する役割が知られていたが、根での機能は不明であった。本研究では、PATROL1が根でもH⁺-ATPaseというプロトンポンプと結合し、その配置と活性を調整することが明らかになった。これにより、根の成長が促進され、水や養分の吸収効率が向上する。
実験では、PATROL1の発現量を高めた植物(PATROL1-OX)は、乾燥ストレス下でも根の本数や長さが増加し、葉の光合成活性も高まった。結果として、地上部の乾燥重量や窒素含量が顕著に向上した。一方、PATROL1を欠損させた植物では、成長が著しく抑制され、乾燥耐性が低下した。
PATROL1は、モデル植物であるシロイヌナズナだけでなく、イネ、ダイズ、トマト、キャッサバ、バナナなど多くの作物にも存在することが確認されている。したがって、このタンパク質を活用した育種により、気候変動による干ばつリスクに対応した作物の開発が期待される。
研究グループは、PATROL1が根と葉の機能を同時に高めることで、植物全体の乾燥ストレス耐性を向上させる中心的な役割を果たしていると考察している。この成果は、持続可能な農業と食料安全保障の実現に向けた新たな育種戦略の基盤となるものである。研究成果は2025年5月21日付で国際学術誌『PNAS Nexus』に掲載された。