富山大学学術研究部理学系の岡本一央助教とゲッティンゲン大学のLutz Ackermann教授らの研究グループは、新たな炭素結合技術(クロスカップリング反応)を開発し、β位官能基化ピロールを合成することに成功した(掲載誌:Angewandte Chemie International Edition)。
クロスカップリング反応は、医薬品や機能性材料の開発に広く用いられるが、従来は高価で埋蔵量の少ないパラジウム触媒を用いる手法が主流であった。これに対し、ニッケルは埋蔵量が豊富で低コストながら反応性に課題があった。本研究では、ニッケル触媒を電解酸化することで高原子価の活性種を生成し、ベンズアミド誘導体とエナミンとの反応を通じて、完全な位置選択性を持つβアリール化ピロール誘導体を一段階で合成することに成功した。β位官能基化ピロールは医薬品骨格に頻出する物質であり、本研究では電気エネルギーと安価なニッケル触媒を組み合わせたプロセスを実現したことが高く評価された。
新規プロセスは、ハロゲン官能基を必要とせず、副生成物として水素のみを生成する「脱水素型クロスカップリング反応」に分類される。従来の方法で用いられていた毒性の高いハロゲン化試薬を排除できる点で、環境調和性に優れている。また、電気エネルギーを活用することで、再生可能エネルギーの利用促進にもつながる。