琉球大学(熱帯生物圏研究センター西表研究施設)、九州大学、京都府立大学の研究チームは、西表島のマングローブ林において、属の単位で日本初記録となるガの一種「Dichocrocis frenatalis(ネッタイクロスジキノメイガ)」を多数確認し、分類学的な再評価を行った。
本種は、1863年にインド・ニコバル諸島で記載されたDichocrocis属のタイプ種であるが、記載後に別属の種と混同され、分類学的な位置づけが曖昧なまま約100年間放置されていた。タイプ産地でも再発見されておらず、稀種として扱われてきた。
今回の研究では、西表島の演習林で継続的に昆虫調査を行い、同種の成虫を多数採集。沖縄島や石垣島の個体も含めてタイプ標本との比較を行い、詳細な形態観察とDNA解析により、本種がD. frenatalisであることを確認した。さらに、ヒゲナガノメイガ亜科Steniini族に属することを明らかにし、属の定義を再構築する重要な成果となった。――本種はマングローブ林に特化した生態を持つ可能性が高く、葉裏に集団で静止する行動や、捕食性ハエによる捕食など、独特な生態的特徴も観察された。幼虫期の生態は未解明であるが、同族の他種が花や果実、藻類を食べることから、本種もマングローブ環境に依存している可能性がある。
研究者らは、分類の混乱を解消した本成果が、Dichocrocis属全体の再評価につながる第一歩であるとし、今後の行動観察や幼虫の探索を通じて、生活史の解明を進める研究方針を示している。