東京科学大学 総合研究院 化学生命科学研究所の研究チームは、水電解による水素製造に用いる金属硫化物触媒の活性が、構成金属の「d電子数」によって決定されるという新たな法則を世界で初めて明らかにした。
水電解は、再生可能エネルギーを活用して水から水素を製造する技術であり、脱炭素社会の実現に向けた重要な手段とされている。特に陽極での酸素発生反応は過電圧が大きく、反応全体の律速段階となっているため、高活性な触媒の開発が求められていた。従来は高価なレアメタルが用いられていたが、安価で地球上に豊富な金属硫化物への期待が高まっていた。
研究チームは、MnS、CoS₂、NiSなど9種類の金属硫化物を水熱法で合成し、表面比活性を評価。さらに密度汎関数理論(DFT)による第一原理計算を用いて、各金属のd軌道に存在する電子数を算出した。その結果、d電子数と触媒活性の間に「火山型プロット」と呼ばれる相関関係があることが判明。d電子数が7〜8個のときに最大の触媒活性が得られることが示された。この知見は、金属硫化物触媒の設計において、従来の試行錯誤型の探索から脱却し、効率的な材料開発を可能にする指針となる。――d電子数という指標は金属リン化物や窒化物など他の化合物群にも応用可能性があるという(掲載誌:Catalysis Science & Technology)。