山梨大学、千葉大学、大阪工業大学および広島大学の研究者らの国際研究チームは、ハワイ島マウナケア山の残雪で雪氷藻類による「赤雪」現象を初めて確認し、その遺伝的系統と分散・定着の歴史を明らかにした(掲載誌:The ISME Journal)。
雪氷藻類は、寒冷環境に適応した光合成微生物で、細胞内に赤色素アスタキサンチンを蓄積することで雪を赤く染める「赤雪」現象を引き起こす。これらは雪面の反射率を低下させ、融雪を促進することで気候システムにも影響を与える。――マウナケア山は熱帯に位置しながらも冬季に降雪があり、2023年はラニーニャの影響で積雪が7月末まで残存する異例の年となった。
研究チームは、2021年と2023年に採取した雪試料のうち赤雪と判断された試料に対し、細胞形態の観察、色素分析、ITS2領域を用いたDNA解析を実施した。その結果、当該試料中の雪氷藻類の約95%がハワイ島固有の系統であることが判明した。また、それらの藻類は主に「クロロモナディニア」系統に属し、約25万〜13万年前の氷期に到来し、島内で独自に進化したと推定された。一方、世界各地に分布する「サングイナ属」も一部検出され、2023年の融雪期後半(6月〜7月)にかけて増加する傾向が見られた。
このことから、ハワイ島における赤雪現象は長期的に定着した固有系統と、現代の大気循環を介して飛来する広域分布系統の両者が交錯して成立する複合的な現象であることが示された。研究者らは、気候変動によりマウナケア山の降雪頻度や残雪期間が減少すれば、ハワイ島固有の遺伝的多様性が失われる可能性があると警鐘を鳴らしている。本研究は、微生物の地球規模の分散と島嶼における適応進化のメカニズムを具体的に示すものであり、気候変動時代における希少生態系の保全に向けた科学的基盤に新たな知見を提供するものである。