理化学研究所を中心とする共同研究グループは、温帯性草本植物が長期的な高温ストレスに適応するための鉄吸収制御機構を明らかにした。本研究には、横浜市立大学、長崎大学、明治学院大学、愛知製鋼株式会社、東京大学、農業・食品産業技術総合研究機構が参画している(掲載誌:Nature Communications)。
温暖化の進行により、コムギなど温帯地域で栽培される作物は高温環境にさらされる機会が増加しており、収量低下が懸念されている。従来は短期的な熱ショックへの応答が中心に研究されてきたが、本研究では長期的な高温ストレスに着目し、植物の鉄吸収メカニズムとの関連を解析した。
モデル植物ミナトカモジグサを用いた解析により、高温耐性系統では鉄吸収に関わるムギネ酸の分泌量が多く、特に根で発現するトランスポーター遺伝子BdTOM1が重要な役割を果たすことが判明した。ゲノム編集による遺伝子破壊実験では、BdTOM1の欠損が鉄欠乏と生育障害を引き起こす一方、合成ムギネ酸PDMAの投与によりその影響が緩和された。さらに、コムギにおいても同様の鉄吸収機構が保存されており、PDMAの投与により高温ストレス下での鉄欠乏や光合成機能の低下が改善された。ただし、過剰な鉄供給は鉄過剰ストレスを引き起こすことも確認され、鉄ホメオスタシスの維持が重要であることが示唆された。
共同研究グループは、温暖化に対応した作物育種や栽培管理技術の開発に資するものであり、SDGsの「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」に貢献する成果と訴求している。理化学研究所の南杏鶴氏は、「鉄欠乏に敏感な系統ほどムギネ酸分泌が促進され、結果的に鉄吸収が改善されるという逆説的な仕組みが明らかになった」と述べている。