広島大学の久野真純助教(研究当時:京都大学情報学研究科所属)は、従来の定点調査法における厳格なルールを緩和し、日常生活や旅行の合間に実施可能な「“ゆる”定点調査」を提案した(掲載誌:Ecology and Evolution)。
本手法は、調査地点や時間帯、調査点間距離などの制約を柔軟に設定することで、より多くの市民が参加しやすくなり、大規模な鳥類群集データ収集を可能にするもの。従来の定点調査は、早朝に限定された時間帯や一定距離間隔の維持が求められ、参加者の心理的・身体的負担が大きかった。これに対し、“ゆる”定点調査では、通勤・通学路、公園、観光地、スーパーの駐車場など、従来対象外とされてきた生活圏や人為改変環境も調査対象に含めることで、空間的な調査範囲を拡張する。また、調査点間距離の制約を撤廃し、統計モデルによる補正を導入することで、空間的自己相関や擬似反復の影響を最小化する枠組みも提示された。
調査の時間帯についても、早朝以外の午前・夕方の調査を許容し、検出率の時間変動を共変量として統計的に補正する設計が採用されている。さらに、調査時間の短縮(5〜10分)や季節の拡張(越冬期・渡り期)により、調査の継続性と頻度の向上が期待される。――実際の応用例として、カナダ・アルバータ州では1週間で56地点を調査し、48種・324個体の記録を得たほか、国内では2年間で1,300地点以上を1人で調査する成果が報告されている。これらの結果は、柔軟な設計が広域データ収集に有効であることを示しており、都市設計や緑地政策への科学的根拠の提供にもつながる。
本研究は、日本学術振興会(科研費・若手研究:21K17912)および広島大学スタートアップ経費の支援を受けて実施された。