東京海洋大学の研究チームは、市民から寄せられた目撃情報を活用し、東京湾におけるスナメリ(Neophocaena asiaeorientalis)の生態を明らかにした。スナメリは日本沿岸の浅海域に生息する小型のハクジラ類で、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されている。小型で目立たず、吹気音も不明瞭なため、従来の目視調査では発見が困難とされてきた。
本研究では、2024年7月から2025年2月にかけて寄せられた41件の目撃情報のうち、27件がスナメリと確認された。その約85%が2頭以上の群れで行動しており、通常は単独行動が多いとされるスナメリが、東京湾内では複数で行動する傾向があることが示唆された。特に2024年9月には、富津岬沖で30頭以上のスナメリが一度に確認され、東京湾内では過去最多、日本国内でも3番目に多い記録となった。
目撃情報の多くは浦安市から市原市沖に集中しており、東京湾奥部がスナメリにとって重要な生息海域である可能性が高い。東京湾は空域制限があるため空撮調査が難しく、これまでの練習船による調査でも発見例は少なかったが、市民科学という新たな手法により、都市湾におけるスナメリの分布と生態が初めて科学的に捉えられた。
研究チームは、SNSを通じた市民参加型の情報収集が、絶滅危惧種の保全において重要な役割を果たすことを強調している。今後も目視調査と併用しながら継続的なデータ収集を行い、東京湾におけるスナメリの保全に資する科学的知見の蓄積を目指すとしている。