北海道大学北方生物圏フィールド科学センターを中心とする研究者4名と全国の市民160名が連携し、日本固有種の毒蛇ヤマカガシにおける色彩多型の全国一斉調査を実施した。調査は青森県下北半島から鹿児島県屋久島に至る広範囲で行われ、従来6種類とされてきた色彩型を大きく上回る123種類以上の体色と模様の組み合わせが記録された。
「色彩多型」とは、同一種内で体の色や模様に多様性が見られる現象であり、生物の進化や生態適応を理解する上で重要な指標とされる。これまでの研究では、ヤマカガシの色彩型は関東型・関西型・九州型など地域名を冠した6種に分類されていたが、観察地域が限定的であったため、全国的な分布や多様性の実態は不明であった。
本研究では、SNS(X/旧Twitter)を通じて市民に画像提供を呼びかけ、953点の画像が集まった。そのうち条件を満たす180点を選別し、研究者が収集した328点のWeb画像および野外調査による30点を加えて解析を行った。その結果、色彩型は連続的な変異を示し、明確な分類群に分けることが困難であることが判明した。また、地域名を冠した型が他地域にも広く分布していることも確認された。さらに、模様の大きさと生息地の気温との相関が見出され、寒冷地に生息する個体ほど斑紋が小さい傾向があることが示唆された。これは、低温環境下での行動速度の低下を補うため、捕食者の視覚を混乱させる戦略の一環である可能性があると研究者らは述べている。
本研究は、研究者と市民が協働する「市民科学」の有効性を列島規模で実証したものであり、生物多様性の記録とその創出・維持機構の解明に向けた新たなアプローチを提示した。成果は2025年5月19日付で『Zoological Journal of the Linnean Society』に掲載された。