東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻・齋藤幸碩特任研究員らの研究グループは、名古屋大学らと連携し、2020年夏に発生した西之島の噴火が約130 km離れた小笠原諸島・聟島周辺の植物プランクトン増加に寄与した可能性を、衛星データの時系列解析と粒子追跡シミュレーションを組み合わせて検証した(掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science)。
本研究では、NASAのAqua衛星MODISおよび気象衛星ひまわり8号によるクロロフィルa濃度(Chl-a)データを用いて、聟島周辺海域の植物プランクトン量の時系列変動を解析した。季節変動や長期トレンドを除去するSTL分解を適用した結果、噴火期(2019年12月〜2020年8月)には短期変動成分の比率が非噴火期の約3倍に上昇しており、火山活動が当該海域に通常とは異なる変動をもたらしたことが示唆された。
さらに、全球海洋予測システムGOFS 3.1の海面流速データを用いた粒子追跡シミュレーションにより、火山灰を含む海水塊の移動経路を再現したところ、後方追跡では、2020年7月4日に聟島周辺で観測された高濃度Chl-a海水塊が、6日前の6月28日に西之島北東側で広がった火山灰領域と一致することが分かり、前方追跡では、同日時の火山灰降下域から出発した海水塊が約6日後に聟島周辺へ到達する様子が再現された。
これらの結果を総合すると、6月28日に西之島の噴火で放出された火山灰が海流に乗って北東側の広域に降下し、約130kmを約6日かけて輸送される過程で植物プランクトンが増殖し、7月4日前後に聟島周辺でブルームとして観測されたというシナリオが支持される。
本研究は、火山由来の栄養物質が遠隔海域の生産力に影響を及ぼす可能性を示すものであり、海洋生態系変動の理解や水産資源管理への応用に資する知見を提供する。なお、研究は、東北大学の卓越大学院プログラムおよび名古屋大学の宇宙利用人材育成プログラムの支援を受けて実施された。