物質・材料研究機構(NIMS)は、東京理科大学、神戸大学と共同で、イオンゲルとグラフェンを用いた新型AIデバイスを開発した。本技術は、物理現象を計算に活用する「物理リザバーコンピューティング」に基づき、従来の深層学習と同等の計算性能を維持しながら、計算負荷を約100分の1に低減する成果を得た(掲載誌:ACS Nano)。
「物理リザバー」とは、入力信号に対して物質が示す非線形応答を情報処理に活用する手法のひとつで、低消費電力かつ高集積性を備えたAIデバイスの実現に向けて注目されている。今回の研究では、グラフェンとイオンゲル(EMIm-TFSI)を用いた電気二重層トランジスタ(EDLT)を構成し、イオンと電子の複雑な振る舞いによって、100ナノ秒から数10ミリ秒に及ぶ広範な応答時定数領域と高い非線形性を実現した。これにより、従来の物理リザバーが抱えていた時間スケールの制約を克服し、生体信号など多様な時系列情報の解析に対応可能となった。
具体的な成果としては、Mackey-Glass方程式予測タスクにおいて、6個のドレイン電極から得られた電流値を用いて未来状態を予測し、1ステップ先の予測誤差は4.63×10⁻⁵と極めて小さく、99%以上の高精度を達成した。さらに、10ステップ先の予測でも既存の物理リザバーを上回る性能を示し、ソフトウェア型深層学習と同等の精度を維持しつつ、必要な計算負荷を約100分の1に抑えることに成功している。
NIMSらは今後も、開発した素子を搭載した超低消費電力のエッジAIデバイスの実現を目指す方針である。電気二重層のナノスケール応答を情報処理に活用する本技術は、限られた電力環境下でも高性能AI機能を実装可能とする新たな材料技術であり、マテリアルベースのAIデバイス開発における革新技術として社会実装が期待される。なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)さきがけ事業「超高速動作イオントロニクスの創成」の一環として実施された。
情報源 |
NIMS プレスリリース
東京理科大学 プレスリリース 神戸大学 プレスリリース JST プレスリリース |
---|---|
機関 | 物質・材料研究機構(NIMS) 東京理科大学 神戸大学 科学技術振興機構(JST) |
分野 |
環境総合 |
キーワード | 低消費電力 | グラフェン | エッジAI | JSTさきがけ | 物理リザバー | イオンゲル | 電気二重層 | 非線形応答 | Mackey-Glass方程式 | ナノスケール応答 |
関連ニュース |
|