東京科学大学・医歯学総合研究科公衆衛生学分野の西村助教を中心とする研究グループは、台風通過後に脳卒中リスクが上昇し、出血性脳卒中で顕著な増加が認められたと発表した。本研究は、気候変動時代における新たな健康リスクを提示するものである(掲載誌:Environment International)。
台風は日本を含むアジア太平洋地域で頻発する自然災害であり、気候変動に伴い今後さらに勢力が強まることが予想される。これまで自然災害の健康影響を類型別に評価した研究は世界的にもほとんどなく、なかでも脳卒中に関する知見は乏しかった。既往研究では、急激な気圧低下に伴う血圧上昇が、出血性脳卒中のリスク増加に関与する可能性が指摘されていた。
本研究では、2011年から2021年までの全国入院データを対象に、台風曝露期間と非曝露期間の脳卒中による緊急入院件数を比較した。入院データはDPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースから抽出した。DPCは、日本の急性期病院で導入されている包括評価制度に基づく診療情報で、診断名や治療内容を標準化した形式で記録している。解析の結果、台風曝露後7日間に脳卒中全体のリスクが1.049倍に上昇し、特に出血性脳卒中では1.129倍、脳内出血で1.131倍と顕著な増加が示された。また、くも膜下出血でも上昇傾向が示された。これらの結果は、気候変動下で台風の強度が増し、頻発化することで、脳卒中リスクが高まる時代が到来する可能性を示唆するものである。
研究チームは、台風通過後の急性期における健康リスクへの注意喚起と、地域医療体制の強化が重要だと指摘している。医療従事者による啓発活動や迅速な対応、さらに災害対応を含む公衆衛生政策の整備が求められるという。