理化学研究所の嶋研究員を中心とする研究グループは、マイクロプラスチック(MP)がマハゼに及ぼす影響を評価し、現行の環境レベルでは代謝に顕著な変化が見られないことを明らかにした。本研究は、"自然データと実験データを統合する新手法"により、環境リスク評価の精度向上に寄与するものである(掲載誌:Science of the Total Environment)。
プラスチックは生活に広く利用される一方、微小な破片であるMPが環境中に拡散し、生物への影響が懸念されている。しかし、自然環境における濃度が生体代謝にどの程度影響するかは定量的評価が難しく、明確な結論が得られていなかった。既往研究では実験室での暴露試験が中心であり、自然界との比較が不十分だった。
研究チームは日本の河口域に生息するマハゼを対象に、ポリエチレン製MPを含む餌を摂取させ、筋肉中の代謝プロファイルを核磁気共鳴(NMR)法で解析した。その結果、暴露群と対照群の間に顕著な代謝差は認められなかった。さらに、全国の河口から採取した約1,000個体の自然データと統合解析を行い、「高次元データを低次元に圧縮し、類似性を視覚化する手法(UMAP)」による次元削減と、機械学習を用いて比較したところ、実験群は自然群の代謝変動範囲内に位置付けられることが確認された。これらの知見は、現行の環境レベルでのMP暴露が、日本においてマハゼの代謝に深刻な影響を及ぼす可能性が低いことを明らかにした。
研究グループは、「実験データと自然データを統合する解析枠組みが、MPの生物影響に限らず、循環型社会の設計や資源循環の最適化にも応用できる」と述べている。本研究は、環境負荷を科学的根拠に基づいて評価するための計算科学的手法を提示したものであり、今後の応用が期待される。