環境技術解説

蓄電池

充電し、繰り返し使用することができる「蓄電池(『二次電池』ともいう)」は、現代の生活に無くてはならないものとなっている。その用途は、ノートパソコンやスマートフォンの電源、電気自動車をはじめ、さまざまな製品に及んでいる。

近年では、業務・産業用における電力貯蔵・利用システムの普及が急速に進み、「蓄電池」の活用シーンはさらに広がっている。脱炭素化に向けた世界的な潮流や、石炭火力に依存しない多様な電源構成が求められる中、再生可能エネルギーの積極的な利活用に大いに貢献している。また、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(令和3年6月18日策定)」では、蓄電池市場の拡大に大きな期待が寄せられている。

現在主流の蓄電池には、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などの種類がある。ここでは、それら蓄電池について、原理や特徴、用途などを概観するとともに、実用化や新たな技術の普及に向けた研究開発の動向などを紹介する。



図1 蓄電池のイメージ図


※掲載内容は2023年1月時点の情報に基づいております。
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1.背景

一言に「蓄電池」といっても、さまざまな仕組みのものがある。歴史的には、鉛蓄電池、ニカド電池、ニッケル水素電池(Ni-MH 電池)、そしてリチウムイオン電池(LIB)の順に開発されてきた。エネルギー密度の向上を追求した結果、多様な蓄電池が登場し、種類ごとに異なる技術進展の道筋を辿ってきた。種類や用途の豊富さに加え、同じ種類であっても構成材料が変わるだけで特性がまったく変化してしまうという点も、蓄電池の大きな特徴の一つである。技術的な要求は計り知れないものがあるが、現時点では、市場ニーズを含めて車載用蓄電池と定置用蓄電池が大きな流れを形成している。

万能な蓄電池は存在せず、現状の蓄電池のさらなる改良、技術革新が求められている。車載用蓄電池にあっては、高エネルギー密度化、充電時間の短縮化、長寿命化および低コスト化、安全性の確保などが課題となる。

一方、定置用蓄電池(電力貯蔵用蓄電池)にあっては、電力系統内での役割や、多様なインフラ機器としての運用の観点から、安全性、信頼性(低故障率)、コスト、設置性(設備サイズが小さい)、長期耐久性などが重要となる。また、用途を問わず、蓄電池の状態診断・監視モニタリング技術の確立も必要となる。

図2には蓄電池を活用したエネルギーシステムのイメージを示した。



図2 蓄電池を活用したエネルギーシステムのイメージ
出典:経済産業省「蓄電池産業戦略(2022年8月31日)」


例えば、再生可能エネルギーは、気象条件によって発電量が左右され、安定した電力供給が難しいことに加え、電力需要は昼間がピーク、夜間がボトム(最小)であることや、季節によって変動する特徴がある。そこで、発電した電力を必要なときに備えて貯めることができる電力貯蔵技術と組み合わせることで、電力供給システムの安定性を高めることができるとされる。

また、電気自動車やプラグインハイブリッド車などのエネルギー供給用として、リチウムイオン電池が普及している。これら次世代車両の二次電池は、走行時の駆動力として利用されるだけではなく、自宅に駐車している間に蓄電している電力を家庭で使う電力の供給源としての利用も始まっており、災害時における非常用電源としても期待されている。


2.蓄電池の種類

蓄電池(二次電池)とは、繰り返しの充電・放電が可能な電池のことで、化学反応を利用してエネルギーを貯蔵・放出する。定置型のものや移動体用、小型携帯機器用などがあり、小容量から大容量まで幅広く実用化されている。

以下では、定置型と移動体用の二次電池の技術開発について紹介する。


1)ナトリウム硫黄電池(NAS電池)

NAS電池は、負極に金属ナトリウム、正極に硫黄を配置し、これを固体電解質(ベータアルミナ)で隔てる構造のもので、固体電解質の中をナトリウムイオンが移動できる特性を利用している(図3)。



図3 NAS電池の原理


NAS電池は大容量の蓄電が可能で、当初は電力会社の電力供給設備を効率的に利用するため、需要地に近い変電所に設置することを目的に開発されたが、現在では工場の受電電力平準化を中心に、非常用電源や瞬低・停電補償を目的に設置されることも多くなっている。

2001年に八丈島において風力発電の発電電力平準化を目的とした実証試験が行われたほか、大規模な蓄電池併設型風力発電所の二又風力発電所(青森県六ヶ所村)において、34MWのNAS電池の実用化実験が2007年に行われている。

その後導入が進み、2016年3月には、九州電力の豊前蓄電池変電所において、世界最大級となる50MWのNAS電池の稼働が開始された。


2)レドックスフロー電池

「レドックスフロー」という名前は、Reduction(還元)とOxidation(酸化)、およびFlow(流れ)の合成語である。正極・負極ともバナジウム(V)を用い、これを希硫酸に溶かして電解液としている。電解液が電池セルと電解液タンクの間を循環する際にバナジウムイオンの価数が変化することによって充・放電が行われる(図4)。

電解液は半永久的に使用可能なため、長寿命の電池といえる。



図4 レドックスフロー電池の原理
出典:日本電気技術者協会「電気技術解説講座」


レドックスフロー電池はNAS電池と同様、大容量の蓄電が可能なため、負荷平準化を目的に開発が進められてきたが、現在は工場の受電電力平準化や非常用電源、瞬低・停電補償に実用化されているほか、太陽光発電や風力発電の発電電力平準化のための実証試験などが行われている。

北海道の南早来変電所では、世界最大級となる容量60MWhの大型蓄電システムを導入、周波数変動を抑えるための周波数調整用電源としての効果が検証される。


3)ニッケル水素電池

ハイブリッドカーなどに使われているニッケル水素電池は、急速充電が行えるため、使い切っても短時間で充電できるという特長を持っている。正極に水酸化ニッケル、負極に水素吸蔵合金を配し、水酸化カリウム水溶液を電解質に使っている。

開発当初以来、移動体や携帯機器用として利用されてきたが、最近では大容量の産業用定置型ニッケル水素電池も開発され、風力発電・太陽光発電の発電電力平準化や受電電力平準化などにも利用されている。


4)リチウムイオン電池

ニッケル水素電池と並んで多くの携帯機器用に広く利用されているリチウムイオン電池は、正極にリチウム含有金属の複合酸化物、負極に炭素化合物を用いている。メモリー効果(繰り返し充電による蓄電能力低下現象)が小さく、放電持続時間が長いことなどから爆発的に需要が増大しており、大手リチウムイオン電池メーカー各社では生産増強の動きが活発である。

当初、ハイブリッドカーへの搭載電池はすべてニッケル水素電池となっていたが、安全性の向上により、現在はリチウムイオン電池への移行が進んでいる。リチウムイオン電池はニッケル水素電池に比べ、エネルギー密度が高いという特長がある。そのため電気自動車では主流となっているが、航続距離の短さが課題となっており、エネルギー密度をさらに高めるための研究開発が行われている。

また、電解液の代わりに固体電解質を利用する全固体電池の開発も進められている。従来、リチウムイオン電池には可燃性の有機電解液が使われていたため、発火する危険性があった。固体電解質だと、安全性が高く、エネルギー密度の向上や、使用温度の拡大も期待できる。リチウムイオン伝導率の低さが課題だったが、最近では、新エネルギー・産業技術総合開発機構のプロジェクトで、従来のリチウムイオン電池以上の出力特性を持った全固体電池が試作されている。近年、電気自動車(EV)の普及とともに、その安全性が注目され、自動車メーカーや電機メーカーの間で研究開発が盛んに行われている。



図5 リチウムイオン電池の原理


5)鉛蓄電池

鉛蓄電池は、車載用バッテリーに使われている。正極に二酸化鉛(PbO2)、負極に鉛(Pb)、電解液に希硫酸(H2SO2 )が用いられている。

蓄電池の中でも古い歴史を持ち、開発から現在まで様々な用途で利用されている。

その用途は幅広く、自動車のバッテリーとして利用されているのを始め、非常用電源やバッテリー駆動のグリーンスローモビリティ、ゴルフカートやフォークリフトなど電動車用主電源としても用いられており、安価で使用実績が多く、信頼性に優れているという特長がある。



図6 鉛蓄電池の原理


3.蓄電池の用途

1)車載用蓄電池

車載用蓄電池には、エネルギー密度が濃く、小型・軽量で、長寿命(8年~10年)などの理由からリチウムイオン電池が主流になっている。

電気自動車では、1回の充電により走行可能な距離が重要である。現状の電気自動車はガソリン車並みの走行距離を実現することは可能であるとされるが、蓄電設備に大きなスペースを必要とする。このためよりエネルギー密度の高い蓄電池が求められている。

併せて「ハイブリッド車(HV)」「電気自動車(EV)」も参照されたい。


2)業務・産業用蓄電池

公共施設や事務所、商業施設などへの蓄電システム導入が進んでいる。産業用は、家庭用と異なり大きな容量が要求される場合が多い。そのため、NAS電池が主流となっている。

また、事業継続計画(BCP)として、太陽光発電と大型蓄電池を導入する事業体も増加している。

併せて「ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)」「省エネビル」も参照されたい。


3)系統用蓄電池

系統用蓄電池は、余剰電力を蓄電・放電することで電力の安定供給するため、送電網に直接つなぐ蓄電池である。

2022年8月に開催された第2回GX実行会議において、再エネ政策の今後の進め方として、再エネ大量導入に向けた系統整備/調整力の確保が1つの柱と位置づけられ、系統用蓄電池を含む定置用蓄電池についても導入加速を目指すこととされた。

九州電力(株)とNExT-e Solutions(株)が、系統用蓄電池「大牟田蓄電所」(出力1,000kW、蓄電容量3,000kWh)の運用を開始するなど、各地で取組が進んでいる。



4)家庭用蓄電池

家庭用蓄電池は、東日本大震災後、非常用電源の確保や電力不足の解消を目的に家庭での導入を支援する補助金により、販売台数が大きく伸びた。同制度は2015年に廃止されたが、その後、太陽光発電の余剰電力買取期間の満了を迎えた家庭で、発電した電力を自家消費するために蓄電池を導入する家庭が増加し、再度需要が高まっている。

図8に家庭用蓄電池システム導入台数の実績および見通しを示した。2019年実績は年間11万台規模であった市場は、2025年には年間27万台(累積158万台)、2030年には年間35万台(累積314万台)規模に拡大するとの見通しという。



図8 家庭用蓄電池システム導入台数実績及び見通し(フロー)
出典:経済産業省「定置用蓄電システムの目標価格および導入見通しの検討(2021年1月19日)」


4.技術を取り巻く動向

蓄電池のサステナビリティ確保に向けた取組みとして、リサイクル・リユースが急務となっている。経済産業省「蓄電池産業戦略(2022年8月)」では、2030年までの国内のリサイクルシステム確立を目指し、使用済電池の回収強化や、リユース電池市場の活性化等に向け、必要な取組を検討するとしている。

自動車リサイクル技術」には(一社)自動車再資源化協力機構を窓口とした車載用リチウムイオン電池のリサイクルスキームを紹介している。併せて参照されたい。



環境省は、公共施設への再生可能エネルギー設備及び省CO2型設備等の導入を支援し、地域のレジリエンス(災害や感染症に対する強靭性)を強化するために、「地域レジリエンス・脱炭素化を同時実現する公共施設への自立・分散型エネルギー設備等導入推進事業」などにより蓄電池の普及を促進している。

この記事で紹介したように蓄電池は、電気自動車などの車載用、電力の安定化や災害時の対応などを目的とした定置用として使用されている。今後も再エネの普及が進み、社会情勢が変化する中で、蓄電池の重要さが増すことが予想される。


引用・参考資料など


<コンテンツ改訂について>
2023年1月:初版を掲載