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 熱中症の重症化プロセス?細胞の高熱誘発メカニズムを解明! 量研など

発表日:2022.08.08


  量子科学技術研究開発機構、大阪大学、東京慈恵会医科大学などの共同研究グループは、タンパク質の過敏な熱応答が体温上昇を誘発・加速する仕組みを解明した。悪性高熱症(MH: Malignant Hyperthermia)という麻酔合併症がある。全身麻酔を受けた患者がごく稀に発症する疾病で、40℃以上の高熱,筋の硬直等が起き、死に至るケースも少なくない。現在、末梢性筋弛緩薬の投与などによって死亡率は低減しているものの、MHの発症予測や治療方法は未だ確立されていない。MH発症患者からは「1型リアノジン受容体(RyR1)」の変異体が見つかっている。本来は筋肉の力を発揮(細胞内のカルシウムイオン放出)するために働くRyR1が遺伝的に変異し、吸入麻酔薬などによって異常をきたすことでMHが発症化すると考えられている。同研究グループの中核メンバーは、RyR1に関する先行研究の盲点や課題などについて熱い議論を交わし、RyR1変異体の「熱産生」と、正常な体温が維持できなくなり制御不能となる仕組み(以下「熱暴走」)という新視点を浮き彫りにした。熱暴走という概念は、MHの症状のひとつであって原因ではないと見られてきた。また、それを精密に再現・確認する手法も提案されていなかった。同研究グループは、RyR1変異体を持つウサギの細胞などを準備し、細胞のカルシウムイオンの量を顕微鏡でモニターする技術と、局所熱パルス法および高度なイメージング技術を併用する実験手法を考案し、MHに係わる一連の仕組みのどこかに、熱産生を暴走させるステップがあるという仮説の検証を試みた。その結果、RyR1が1秒以内の熱応答に鋭敏に反応し、それがMH発症の契機となっていることが確認され、“麻酔薬投与・カルシウム放出-筋肉の熱産生-温度上昇”の流れに介在する「熱誘発性カルシウム放出」プロセスの存在が示唆された。RyR1変異体は熱中症発症者からも見つかっており、熱中症の発症メカニズム解明や発症の予測に資する可能性がある。他方、当該プロセスは変異の無いタンパク質でも見つかっている。同研究グループは、カルシウムイオンに関わる情報伝達がカルシウムシグナリングと呼ばれていることを踏まえ、この現象を細胞自身が産生する熱を利用する「熱シグナリング」と呼び、さまざまなシグナリングと共に理解深化を図る必要があると提唱している。MHと熱中症に共通する現象であることから、両疾病の発症メカニズム解明等はもとより、予防・治療薬開発など、創薬分野への応用展開が期待できるという。

情報源 大阪大学 ResOU
量子科学技術研究開発機構 プレスリリース
機関 大阪大学 量子科学技術研究開発機構 東京慈恵会医科大学
分野 健康・化学物質
キーワード 熱中症 | 悪性高熱症 | 1型リアノジン受容体 | RyR1 | 熱産生 | 熱暴走 | 熱応答 | 熱誘発性カルシウム放出 | シグナリング | 創薬
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