名古屋工業大学 先端医用物理・情報工学研究センターの平田晃正教授らの研究グループは、日本システム技術(株)と共同で、全国規模の保険者データベース「メディカルビッグデータREZULT」を活用し、糖尿病患者の熱中症リスクに関する大規模解析を実施した。対象は2016年から2022年までの約256万人分の保険請求情報(レセプト)で、糖尿病患者約18.8万人と、性別・年齢・地域を揃えた非糖尿病者約75万人を比較した。
糖尿病は、発汗機能や体温調節機能の障害を伴うことが知られており、これまでにも熱波時の死亡率増加との関連が報告されていた。しかし、日常的な高温曝露による熱中症リスクについては、地域限定の小規模研究が中心で、全国規模での包括的な評価は行われていなかった。
本研究では、Cox回帰分析により、糖尿病患者は非糖尿病者に比べて熱中症リスクが1.4倍(HR=1.41, 95%CI: 1.30–1.53)高いことが判明した。特に30~59歳の就労世代男性では最大1.7倍(HR=1.69, 95%CI: 1.20–2.38)に達し、屋外作業や職場環境が影響している可能性がある。また、北海道などの寒冷地域でもリスク上昇が認められ、暑熱順化の遅れや冷暖房環境の地域差が要因と考えられる。さらに、東京や大阪などの都市部では、最高気温が30℃以下の日でも糖尿病群の熱中症罹患率が高く、猛暑日以外でも注意が必要であることが示された。――これらの結果は、気候変動の進行に伴う熱中症予防政策の立案や、糖尿病患者に対する個別対策の必要性を示唆している。平田教授は「糖尿病患者における暑熱環境への脆弱性を定量的に示した本研究は、今後の健康政策や医療支援体制の構築に資する」と述べている。