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 シカの食わず嫌いが新たな食害を引き起こす?!

発表日:2024.01.19


  森林の地表近く(林床)には耐陰性の高い低木や草本植物が生育している。それらが優占する下層植生は林地や生物多様性の保全に役立っているが、その反面、樹木の発芽や実生・稚樹の成長を妨げる要因となっている(更新阻害要因)。他方、野生のシカは下層植生のなかでもイネ科の草やササなどを好んで食べ、ツツジ科植物のアセビ(アシビ、馬酔木)などはほとんど食べない。そうした食性を有するシカの個体数が増加するにつれて、林床にアセビなどの不嗜好性植物が残る(増える)という構図が描かれていく。宮崎大学研究・産学地域連携推進機構テニュアトラック推進室の徳本准教授と九州大学大学院農学研究院の片山准教授は、全国各地で深刻化しているシカ食害を意識しつつ、九州大学宮崎演習林(宮崎県椎葉村)において、アセビの繁茂が下層植生や森林土壌に及ぼす影響を総合的に調査した。調査実施場所はササが食べ尽くされ、アセビの繁茂が確認されていた2つのエリアとした。アセビ群落内外の環境と土壌微生物相の変化を比較解析したところ、シデ類やナラ類といった落葉広葉樹の直下で光環境が暗くなり、土壌中の菌相も共生菌類のうち外生菌根菌の相対的な存在量が低下していたことが分かった。また、アセビが繁茂している箇所には稚樹や実生が見つからなかったことから、他の植物種が排除され、森林の更新を阻害している可能性が示唆された。シカ食害については、樹木の葉・皮・芽・樹皮、ドングリの実、あるいは農作物などの損失をもって論じられることが多いが、本成果は「シカ不嗜好性植物の繁茂」によって森林の変化に拍車がかかるという新視点を打ち出している。シカと森林の適正な管理のあり方を検討する上で有用な基礎的知見、と結んでいる(DOI: 10.1371/journal.pone.0296692)。

情報源 宮崎大学 News(教育・学術)
九州大学 ニュース(研究成果)
機関 宮崎大学 九州大学
分野 自然環境
キーワード 森林管理 | 下層植生 | 林床 | シカ食害 | 更新阻害要因 | アセビ | 不嗜好性植物 | 九州大学宮崎演習林 | 土壌微生物相 | 外生菌根菌
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