黒潮は、九州の南から四国の沖合まで北上し、房総沖から東に向かう。その間、ほぼ列島に沿って流れるものは「直進型」、紀伊半島沖でいったん大きく沖に出て房総半島近くに戻るものは「蛇行型」と呼ばれている。気象庁は、北緯32度より南まで蛇行した場合を「黒潮大蛇行」と定義している。近年では2017年8月に黒潮大蛇行が観測され、7年以上過ぎた現在も継続している。1965年以降では最も長い継続期間となっているが、黒潮大蛇行が日本の気候に与える影響は十分に理解されていなかった。──東北大学の杉本准教授は、高解像度の気候シミュレーションを用いて、黒潮大蛇行が東海地方の降水量と気温に与える影響を詳細に分析した。その結果、黒潮大蛇行により東海地方から関東地方にかけて降水量が約1.3倍に増加し、気温も約1度上昇することが確認された。また、黒潮大蛇行が最大5度の水温上昇と水蒸気の増加を招き、海洋熱波が発生や東海地方の猛暑の要因となったことが示唆された。──本成果は、黒潮大蛇行がさまざまな気象災害をもたらし、ひいては社会生活に影響することを明確にしたものであり、東海地方の太平洋側における気象災害リスクの考え方に新たな視点を投げかけるものとなっている。