横浜国立大学の野中氏と佐々木教授は、日本の湿原植生を対象とした大規模な長期モニタリングデータを用いて、湿原の維管束植物群集の安定性を規定する要因を解明した。──本研究は、環境省「モニタリングサイト 1000」事業のデータを用いて行われた。湿原における維管束植物群集の安定性は、種の非同調性、種の安定性、組成の安定性によって向上する。野中氏らは、2009年から2022年にかけて収集されたデータを解析し、降水量や気温、維管束植物種の種数、種の非同調性、種の安定性、種組成の安定性、コケ植物の被度が湿原の維管束植物群集の時間的安定性に与える影響を検証した。その結果、湿原の維管束植物群集の時間的安定性を規定する要因を解明することに成功した。また、コケ植物の被度が高いほど、維管束植物群集の安定性は低下することがわかった。気温上昇や熱波、無降水期間の増加によって、コケ植物が含む水分が失われると、維管束植物群集の安定性が損なわれる可能性があると指摘している。──本成果は、湿原の維管束植物の多様性と維管束植物とコケ植物との相互作用が湿原生態系の安定性を左右することを示している。将来的には、より広域かつ長期的なモニタリングを行い、湿原植物群集の安定性に寄与する要因をさらに解明する必要があると結んでいる(掲載誌:Science of the Total Environment)。