名古屋大学と京都大学ヒト行動進化研究センターの研究者24名からなる研究グループは、非ヒト霊長類の"季節的な遺伝子発現アトラス"を作成した。──代謝、免疫、内分泌系は、ヒトを含む動物において季節的に大きな変化を示す。また、心血管疾患や精神疾患の罹患率は冬に重症化し、死亡率も高くなるが、その分子メカニズムは不明であった。本研究では、半自然環境で飼育された雌雄のアカゲザルから1年間にわたり80組織を収集し、季節ごとの遺伝子発現を解析した。血漿代謝物とホルモンの季節変動を調べ、トランスクリプトーム解析により季節的に変動する遺伝子(SOGs)を特定した。また、ウェブデータベース「Non-Human Primate Seasonal Transcriptome Atlas(NHPSTA)」を作成し、転写調節ネットワーク解析、siRNAノックダウン、変異マウス解析を行った。その結果、血漿代謝物とホルモンに季節的な変動が見られ、全ての組織で季節的に変動する遺伝子(SOGs)が特定された。特に、心疾患や脳血管疾患、インフルエンザ、精神疾患などのリスク遺伝子が季節によって発現変動することが示された。例えば、肺では肺炎やインフルエンザのリスク遺伝子群が、大動脈では血管炎症や急性冠症候群のリスク遺伝子群が、脳では精神疾患のリスク遺伝子群が季節に応じて発現変動していることが明らかになった。さらに、薬の効果が季節によって変化する可能性も指摘され、アルコールの効果も季節によって異なることが示唆された。──今回の成果は、季節変動がヒトの健康に与える影響を理解するための重要な基礎データを提供するものである。今後、季節変動遺伝子の詳細な解析と薬理学的操作を通じて、季節によって罹患率が変化する疾患の治療法の開発が期待される。また、季節変動遺伝子に顕著な性差があることが分かっており、疾患に対する感受性の性差のメカニズム解明にも寄与することが期待される(掲載誌:Nature Communications)。
情報源 |
名古屋大学 研究成果発信サイト
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機関 | 名古屋大学 京都大学ヒト行動進化研究センター |
分野 |
健康・化学物質 |
キーワード | 季節変動 | アカゲザル | 生理機能 | 遺伝子発現 | 精神疾患 | 疾患リスク | 心疾患 | 脳血管疾患 | インフルエンザ | 薬効 |
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