北海道大学大学院理学研究院・山田敏弘教授らの研究グループは、愛知県南知多町に分布する約1,800万年前の地層「師崎層群」から、世界初となる中新世の海草化石2種を発見し、新属新種として報告した。発見されたのは、トチカガミ科クロモ亜科に属する「モロザキムカシザングサ」と、ベニアマモ科に近縁とされる「アイチイソハグキ」である。
海草は、浅海に生育する単子葉類で、動物の棲家や二酸化炭素の固定源として、ブルーカーボン生態系の基盤を成している。しかし、柔らかい植物体ゆえに化石として残ることは稀であり、これまでの報告例は極めて限られていた。今回の発見は、ブルーカーボン生態系の成立史における重大なミッシングリンクを埋める成果である。
モロザキムカシザングサは、リュウキュウスガモの祖先に近く、帯状の葉を束ねた短枝構造を持ち、小舌を欠く。一方、アイチイソハグキはタラッソデンドロン属に類似し、小舌を持つ葉を10枚ほど束ねるが、葉縁に鋸歯を持たない点で区別される。さらに、アイチイソハグキの葉にはコケムシやカキの化石が付着しており、当時の海草が現代と同様に表在性生物の生息場であったことを示している。
研究成果は、2025年6月1日付で水生植物学専門誌『Aquatic Botany』に掲載された。研究者らは、師崎層群のような深海堆積層が、これまで見落とされてきた浅海生態系の化石記録を保存している可能性に注目しており、今後の発掘調査や標本保管体制の整備が重要であると指摘している。