国立極地研究所の猪上淳教授・佐藤和敏助教らは、南極観測船「しらせ」による南大洋航海での気象観測データをもとに、南大洋上に卓越する雲の性質を明らかにした。観測の結果、南大洋では厚さ数百メートルの薄い鉛直構造を持つ水雲が多く、-25℃以下の低温環境でも液相の雲粒として存在し、日射を強く反射することが判明した。
水雲(読み:すいうん)とは、液体の水滴で構成される雲であり、氷晶で構成される氷雲に比べて日射の反射率が高い。気候モデルではこの水雲の再現が困難であり、南大洋の海面水温が実際より高く計算される傾向がある。これは、モデルが氷雲を過剰に計算することで、地表面に日射が届きやすくなり、過剰な加熱が生じるためとされる。
研究グループは、2022年12月から2023年3月までの第64次南極地域観測の航海期間中、ライダーシーロメーターやマイクロ波放射計を用いて雲底高度、雲の相状態、気温の鉛直分布を連続的に観測した。その結果、雲底温度が-25℃でも水雲が95%以上の割合で観測され、北半球の夏季に比べて著しく高い存在比率を示した。さらに、雲は対流圏中層の高積雲であり、波状構造を伴い、雲底と雲頂で風向が逆転していることも確認された。──このような雲は、気候モデルの鉛直分解能では十分に扱えず、放射収支の計算に大きな誤差を生じさせる可能性がある。研究グループは、雲形成に関与するエアロゾルの組成や起源の解明、モデル技術の改善が今後の課題であると指摘している(掲載誌:Scientific Reports)。