京都大学大学院工学研究科の趙詩雅特定助教、藤森真一郎教授らと、立命館大学、国際応用システム分析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis: IIASA)の研究者からなる国際共同研究チームは、「脱炭素化が貧困や格差に与える影響」と「炭素税収の還元策の有効性」を定量的に評価した(掲載誌:Cell Reports Sustainability)。
脱炭素化のデメリットとして、エネルギー・食料価格の上昇や、それによる所得格差や貧困層に悪影響が懸念されている。とりわけ途上国では、GHG排出の削減と社会的弱者への配慮を両立する政策設計が求められている。――本研究では、世界180か国を対象とした長期シミュレーションにより、脱炭素化政策の社会的影響を多角的に評価している。具体的には、京都大学とIIASAが開発した2つの世界モデルを用いて、①化石燃料依存継続、②炭素税収を所得比例で還元、③炭素税収を一人当たり均等に還元という3つのシナリオを比較した。
その結果、③の均等還元方式では、低所得層に相対的に大きな便益があり、累進的効果が期待される一方、②の所得比例方式では逆進性が強く、格差拡大の傾向が示された。また、2050年時点で、②の所得比例方式ではインド・サブサハラ・アフリカ・アジア地域で計1億1,000万人以上の貧困人口が増加。③の均等方式では、2030年時点で貧困率が1.4ポイント減少するも、世界人口の5.8%(約4億人)が依然として貧困状態にあることが示された。格差についても、③の方式では低所得層の消費が9.7%増加、高所得層では14.7%減少し、ジニ係数は中央値で0.34ポイント改善。一方②では、すべての所得層で消費が減少し、特に食料・エネルギー品目で価格高騰の影響が顕著だった。
本成果は、炭素税収の累進的還元が貧困・格差是正に有効であることを示唆するものとなっている。ただし、炭素税に係る施策は短期的には限界もあり、「今後は所得税制や軽減税率などを含む複合的な政策設計が求められる」ことを書き添えている。――本研究は、JST先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)、環境省・環境再生保全機構、JSPS科研費、EU Horizon 2020、住友電工グループ社会貢献基金の支援を受けて実施された。
情報源 |
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立命館大学 プレスリリース |
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機関 | 京都大学 立命館大学 |
分野 |
地球環境 環境総合 |
キーワード | SDGs | 国際共同研究 | 貧困率 | エネルギー価格高騰 | 所得格差 | 炭素税収還元 | 脱炭素化政策 | ジニ係数 | 経済的逆進性 | 累進的還元 |
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