文部科学省は、学校施設における木材利用の現状や課題を踏まえ、木造校舎の構造設計標準(JIS A 3301)の改正に向けた検討を進めている。本報告書は、現行基準の概要と改正の方向性を整理したものである。
木造校舎は、地域材の活用による地場産業の振興、学習環境の改善、地球環境保全など多面的な意義を持つ。脱炭素社会の実現に資する建築物等における木材利用促進法の施行を背景に、同省は学校施設への木材利用を政策的に後押ししている。一方、日本における木造施設の整備割合は令和2年度の19.1%から令和5年度には15.6%と減少傾向にあり、主な課題は技術者不足と設計標準の古さであると見られてきた。
「木造校舎の構造設計標準の在り方について」は、構造設計標準「JIS A 3301」の改正方針を取りまとめたものとなる。JIS A 3301は昭和31年に制定され、平成27年以降大幅な見直しが行われていなかった。同省は今回、公立学校施設における木造校舎の整備促進を目的として、現代の技術進展や社会的要請に対応する規格の在り方を提示した。
今回の改正では、金物工法等を活用した合理的な構造設計を導入し、コスト縮減や工期短縮を図るとともに、耐久性・維持管理性に優れた材料の使用による長寿命化を目指す。また、自然採光を活用するハイサイドライト(張弦トラス)の導入、避難・維持管理・日射遮蔽に有効なバルコニーの設置、太陽光発電設備を屋上に設置可能な構造計画など、快適で健康的な温熱環境の確保とNearly ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)達成にも配慮している。
さらに、上階の床衝撃音対策や、高性能CLT耐力壁の新設による空間自由度の確保など、設計の柔軟性と快適性も重視されている。加えて、設計者向けに「技術的資料」を整備し、構造計算例や応用時の留意事項を提示することで、木造設計経験の少ない技術者でも合理的な設計が可能となるよう支援するとしている。