北海道大学大学院農学院の澤田氏、同大学農学研究院の吉澤教授、京都府立大学の大島教授らの研究グループは、ニセキンホソガ属の蛾類における食性進化パターンを系統解析により解明し、日本固有の新種「トチニセキンホソガ」を新種記載した。本研究は、昆虫と植物の複雑な進化的関係を明らかにし、進化の法則性という究極的な問いに迫る成果である(掲載誌:Biological Journal of the Linnean Society)。
植食性昆虫は生物種の約4分の1を占め、その多様化の主たる要因は「寄主転換(餌植物の変更)」とされる。一方で、寄主転換は無秩序に起きるのではなく、特定の植物間で繰り返し生じる傾向があり、植食性昆虫の進化には一定の規則性が存在すると考えられている。
研究グループは、カエデ属とトチノキ属を利用するニセキンホソガ属18種を対象に、3遺伝子領域に基づく系統解析と祖先形質復元を実施した。その結果、カエデ─トチノキ間での寄主転換は少なくとも3回起き、北アメリカで1回、ヨーロッパ~アジアで2回生じたことが示唆された。これは、海を隔てた地域で同様の進化事象が繰り返されたことを意味し、進化の規則性を裏付ける重要な証拠と思われた。また、本調査を通じて、日本のトチノキを利用する新種「トチニセキンホソガ(Cameraria serena)」を発見し、形態・DNA情報に基づき記載した。
さらに、集団遺伝学的解析の結果、トチニセキンホソガは二つの遺伝的グループに分かれ、互いに生息域が重なるにもかかわらず遺伝構造に異なる傾向を示した。この構造は寄主植物であるトチノキの遺伝構造とは全く異なっており、昆虫と寄主植物の遺伝的背景が必ずしも一致しないことを示す重要な知見となった。
研究グループは、「進化多様性生物学における新種記載のあり方に指針を与える」成果だと述べている。なお、本研究はJSPS科研費および韓国国立生物資源院の助成を受けて実施された。
| 情報源 |
北海道大学 プレスリリース(研究発表)
京都府立大学 報道・広報 |
|---|---|
| 機関 | 北海道大学 京都府立大学 |
| 分野 |
自然環境 |
| キーワード | 生物多様性 | 系統解析 | 生殖隔離 | 集団遺伝学 | 遺伝構造 | 植食性昆虫 | 新種記載 | 寄主転換 | 祖先形質復元 | 進化法則性 |
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