北海道大学低温科学研究所の研究グループは、グリーンランド氷床北西沿岸の積雪から、ノースウォーター海域に由来する二つの痕跡を検出した。ひとつは春〜夏の海洋生物活動を示すメタンスルホン酸(MSA)であり、もうひとつは秋〜冬に海氷上で形成されるフロストフラワーに起因する非海塩性硫酸イオン(nssSO₄²⁻)である。今回の調査は、犬ゾリで沿岸部を広域移動しつつ積雪を採取し、過去数年分の環境情報を化学指標として読み解いたものである(掲載誌:The Cryosphere)。
極域の積雪やアイスコアは過去の降雪や大気エアロゾルを層として保存しており、古環境復元の基礎資料となる。本調査が行われたノースウォーター海域は、グリーンランド北西部に隣接するポリニヤ(polynya、海氷域の中に形成される氷のない開水面や薄氷域)。強い北風と暖流の影響で海氷の生成と流出が繰り返される北極域最大級の海氷生産域となっている。フロストフラワーとは極域の薄い海氷や湖氷の表面に水蒸気が昇華して形成される花状の氷結晶であり、海塩や硫酸塩などを濃縮し、大気中へのエアロゾル供給源となることが知られている。
夏季のMSAと秋〜冬季のフロストフラワー起源エアロゾルはノースウォーター海域から輸送された可能性が示された。また、沿岸積雪中のnssSO₄²⁻ピークは内陸の氷床では報告が乏しい現象であり、沿岸特有の海氷過程(フロストフラワー形成)を反映する痕跡と考えられる。さらに、酸素・水素安定同位体比(δ¹⁸O、d-excess)から冬季の昇温イベントも記録されていることが判明した。
本成果は、極夜期に観測・衛星データが限られる海域の過去変動を補完する鍵となるものだ。研究グループは、「積雪化学の季節指標を用いてノースウォーター・ポリニヤの海氷変動と海洋生物活動を100年規模で復元する計画」を公表している。なお、本研究は日本学術振興会科学研究費、北極研究加速プロジェクト(ArCS II)、国立極地研究所特別共同研究の支援を受けて実施された。
| 情報源 |
北海道大学 プレスリリース(研究発表)
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| 機関 | 北海道大学 |
| 分野 |
地球環境 自然環境 大気環境 |
| キーワード | 安定同位体 | アイスコア | 後方流跡線解析 | 古環境復元 | フロストフラワー | ポリニヤ | 海氷生産 | エアロゾル輸送 | MSA | nssSO₄²⁻ |
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