東京大学と国立環境研究所、東北大学大学院生命科学研究科、ドイツのライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所、廃村愛好家等からなる研究グループは、「土地放棄」がチョウ類に与える影響を解明した。人の手によって維持されてきた里地里山の生物多様性は、廃村(人口減少にともなう土地放棄)によって脅威にさらされている。同研究グループは、里地里山の生物を効果的に保全するためには、脆弱化している種を特定することが急務であると考え、廃村愛好家が取りまとめた既存の廃村データベースに基づいて廃村が含まれる18地域を選定し、計34の廃村集落(離村後8~53年)の放棄耕作地・放棄建物用地とそれらに近接する30の居住集落の耕作地・建物用地において、チョウ類の定点調査を実施し、得られたデータから、①チョウ類に対する土地放棄および年平均気温の影響(環境の変化に対する調査時間あたり出現率の増減の大きさ)を種ごとに推定し、②土地放棄の影響と年平均気温の影響に相関があるか調べ、③図鑑の記載をもとに各種が好む生息地タイプ(草原、農地、市街地、森林など11タイプ)を決め、土地放棄の影響が生息地タイプ間で異なるか検討した。年平均気温の変化に対する「チョウの出現率」の変化を解析するとともに、各般のデータの地図化なども行って比較検討したところ、土地放棄によって多くの種が減少し、とりわけ低い気温を好む草原性のチョウ類が減少しやすいことが分かった。本研究は、農山村の土地放棄が地球温暖化による影響に追い打ちをかける形でチョウ類を衰退させうることを示した初めての研究であり、農山村景観の保全が気候変動下の生物多様性保全においても重要であることを示唆しているという。