国立科学博物館(科博)、国立遺伝学研究所、昭和医科大学ほか4大学2機関の研究チームは、腐った肉のようなにおい(腐肉臭)で昆虫を引き寄せる花が、どのようにしてそのにおいを生み出すようになったのかを分子レベルで解明した。──年に数日だけ開花するラフレシアの巨大な花は腐肉臭を放ち、ハエなどの送粉者を誘引する。まったく別の属・科ではあるがカンアオイ属などの植物も腐肉擬態花を咲かせる。腐肉臭の主成分は「ジメチルジスルフィド(DMDS)」という硫黄化合物であるが、これまでの調査研究ではDMDSの生合成に関わる酵素は見つかっていなかった。今回、科博らはDMDSを生み出す酵素「ジスルフィドシンターゼ(DSS)」を発見し、その成り立ちを解明した。DSSは、もともと別の働きをしていた酵素が、わずか2〜3か所のアミノ酸の変化によって新たな機能を獲得したものであることが判明した。さらに、DSSはカンアオイ属だけでなく、ザゼンソウ属やヒサカキ属といった全く異なる植物でも独立に進化しており、同じ機能を持つ酵素が独立に進化を繰り返し、生まれていたことが示された(収斂進化)。この成果は、植物がどのようにして「臭い花」へと進化したかを明快に説明するものであり、分子レベルでの収斂進化の貴重な実例である。美しいだけではない花の戦略と、その裏にある巧妙な進化の道筋が、科学の目で鮮やかに浮かび上がった(掲載誌:Science)。