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アザラシの「ヒゲ」は餌採りの主要センサーだった 極地研など
発表日：2022.06.14
国立極地研究所、カリフォルニア大学サンタクルーズ校および東京大学からなる国際共同研究グループは、アザラシが餌を探索・追跡・捕獲する際、主に「ヒゲ」を利用していることを立証した。マッコウクジラは音波を使って（頭部の構造を活かして）獲物を探索し、深海、時には水深1,000 m超で巨大なイカなどを捕食する。深海の暗闇は視覚による餌の認知が難しく、深海に適応した動物は目に代わる感覚器を進化させてきた、と考えられている。他方、哺乳類の多くは顔に洞毛（動かすことのできるヒゲ）を持っており、優れた触覚センサーとして機能させている動物もいる。例えばネズミは、洞毛をリズミカルに動かして周囲の環境を探り、洞毛を使って暗闇でも障害物を回避することができる。アザラシは深海で餌採りする動物のひとつであり、立派なヒゲを持っている。飼育下での実験により、アザラシのヒゲが水流を感知するセンサーとして重要であることが示唆されてきた。こうした知見を踏まえ、「野生のアザラシはヒゲを水流センサーとして利用し餌を探している」という仮説が立てられてはいるものの、未だ、野外での実証は行われていなかった。同研究グループは、キタゾウアザラシが500 m近い深さまで潜り、小さな深海魚を頻繁に食べることを明らかにしている（Adachi, T., et al., 2021）。今回、キタゾウアザラシの雌が外洋で頻繁に捕食するハダカイワシなど、青い光を放つ（生物発光する）魚の影響を調べるとともに、ハクジラ類（マッコウクジラなど）の採餌行動との違いを明らかにするために、これまで例のないバイオロギング調査が行われた（調査期間：2015～2018年、装着機器：小型ビデオカメラ・ビデオロガー、加速度・光センサー付きロガー）。各種機器は雌10頭に取り付けられた。うち5頭の左頬には小型ビデオカメラは取り付けられ、取得したビデオデータ（長さ：9.4時間）などから、深海におけるヒゲの動きや複数回の潜水・採餌行動を総合的に解析した結果、1)キタゾウアザラシは深海でヒゲを頻繁に広げ、ネズミのように一定の時間間隔で開閉している様子や、2)ヒゲを広げて深海魚を追いかけ、捕食する様子が確認された。また、ビデオデータには3)捕食される前に生物発光する魚の存在も記録されており、全餌採り回数に対する生物発光魚の捕食回数割合は20％程度と試算された。これらの新知見をもとに、キタゾウアザラシは目視よりも、ヒゲで「魚の作った水流」を感知する能力を用いて採餌している、すなわち「アザラシのヒゲは水流センサーの役割を果たしている」と結論付けている。
