甲南大学の学際的な研究チームは、温度変化を記憶した神経細胞が腸に働きかけ、腸内の脂質量を調整し、高温または低温に体を慣れさせる仕組みを特定した。同大学大学院自然科学研究科は、温度変化に対する生物応答、温度耐性などに関する研究に取り組んでいる。近年では、線虫の一種「Caenorhabditis elegans」を用いた遺伝子・細胞レベルの多角的な解析を行い、得られた知見を続々と引用の多い学術雑誌に発表している(ex. Okahata, M. et al., 2019, Takagaki, N. et al., 2020)。今回新たに、温度への慣れ(以下「温度馴化」)に関与する脳神経系および体内組織について新知見を得ることに成功した。本研究では、先ずC. elegansの温度馴化に伴う機能的・構造的な変化(可塑性)を確認している。高温環境下(25℃)で成長した個体を15℃の環境に移し、12 時間置くと、より低温(2℃)に耐えられるようになる。しかし、再び高温環境に戻すと、獲得した低温耐性は失われる。次に、線虫からヒトまで広く保存され、記憶や学習に関わる転写因子 CREBをC. elegansに導入し、温度馴化に関わる新たな分子の探索を行うとともに、それらの働きにとって重要である細胞内のカルシウム濃度の変動を「カルシウムイメージング法」を用いて計測した。その結果、温度の刺激に対して変化する複数のニューロンと繋がり(以下「神経回路」)が明らかになり、それらが温度情報の伝達に関与していることが分かった。他方、飼育温度によって変化する腸の脂質含量を詳細に調べ、神経回路(頭部・尾部・再び頭部)の下流側で腸の代謝に関与する物質を特定している。これらの結果から「温度を受容した神経回路が飼育温度に合わせて腸の脂質含量を調節することで、温度への適応を行っている」という一連の仕組みが裏付けられた。哺乳類(クマなど)は冬眠するために秋に脂肪を蓄える。本研究で明らかとなった「脳・腸連関の神経回路モデル」は、高等動物に共通する生体調節メカニズムのひとつである可能性があり、温度馴化の理解深化につながると考えられる(掲載誌:米国科学アカデミー紀要・PNAS、DOI:10.1073/pnas.2203121119)。
情報源 |
甲南大学 自然科学研究科 ニュースバックナンバー
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機関 | 甲南大学 |
分野 |
健康・化学物質 自然環境 |
キーワード | 低温耐性 | CREB | Caenorhabditis elegans | 神経回路 | 神経ペプチド | 温度馴化 | 温度順化 | カルシウムイメージング法 | 脳・腸連関 | 腸内脂肪 |
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