山形大学、東京農工大学およびジェームズクック大学の研究者らは、都市化によって外来生物の表現型(形態的な特徴)がわずか数十年の間に変化することを突き止めた。世界全体では都市化が急速に進んでおり、今世紀半ばには人類の約7割が都市に居住すると予想されている。人間活動は在来生物の個体数・種数、本来のすみか(場)に大きな影響を与える。近年、都市化は生物多様性喪失の主要因と見られるようになってきた。他方、都市環境だからこそ生き残り、繁栄している生物も少なくない。外来生物はそうした生物の代表格であり、人やモノが集中する都市に侵入し、都市のような攪乱された環境に強い元来の性質(前適応)や競争相手や天敵が少ないことが相まって、ホットスポットを形成すると考えられている。本研究は、都市開発の波を“進化の力”のひとつと見なす、新しい進化生態学的研究の視座から、外来生物の都市適応は今現在も進行しているという仮説の検証を試みたもの。豪クイーンズランド州の3都市および周辺の森林でオオヒキガエル(Rhinella marina)の成体419個体を捕獲し、体長・コスト(時間やエネルギー等)をかけて生成した強力な毒を分泌する耳腺(じせん)のサイズ・脚の長さ・体重を計測し、統計解析を行った。解析結果を生態系別(都市環境/森林環境)に比較検証したところ、都市環境に生息するオオヒキガエルは耳腺が小さく、オスは脚が長く・メスは脚が短い(性差がある)ことが明らかになった。体重については両環境の間に顕著な差が認められなかったという。同州に農業害虫駆除を目的としてオオヒキガエルが導入されたのは1935年であることから、比較的短期間に起こり得る「進化的応答」を示唆する、外来生物の都市適応モデルと言える。都市化は野生動物保護と相容れないものと捉えられてきたが、本成果は生態系保全における新たな枠組みというテーマも投げかけている。都市化と侵略的外来種問題を同時並行的に見つめ、それらの関係性を明らかにすることで、人と野生生物の関わりの理解深化が期待できる、と結んでいる(掲載誌:Biological Journal of the Linnean Society、URL:https://doi.org/10.1093/biolinnean/blac100)。