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 川底の暗黒ゾーンに注目せよ!カワゲラ類の知られざる生涯を解明 北大など

発表日:2022.09.27


  北海道大学を中心とする研究グループは、カワゲラ科昆虫の一種・イシカリミドリカワゲラ(Alloperla ishikariana)の生活史や食物連鎖における地位を解明した。川底にある石の表面や裏が水生昆虫の幼虫にとって格好のすみかになっていることは広く知られており、現地調達できる渓流釣りのエサとして(通称)川虫が重用されている。しかし、水生昆虫の種数は多く、生息場所やライフサイクル(卵~幼虫~蛹~成虫)の詳細が分かっていない種も多い。とりわけカワゲラ科の一部については、観察・採取される幼虫の数が少ないこともあり、“川底の地下部に生息する”という漠とした理解にとどまっていた。川底(河床)にはさまざまなサイズの砂利が堆積している。それらが形成した骨格の隙間は水で満たされており、一定程度の厚みを持った多孔質空間(以下「河床間隙水域」)を成している。水文学的には河川水と浅層地下水が混じり合う場(hyporheic zone、希薄帯)と定義されており、河川生態系の物質輸送・交換にとって重要な役割を果たしている。こうした課題や知見を踏まえ、同研究グループは河床間隙水域におけるカワゲラ類の生活史解明に取り組んだ。実河川の河床面30~50 cm下にステンレスメッシュ籠製・土砂トラップを設置し、内部のリターバッグに捕獲した水生昆虫等を塩ビパイプ製・開口部から観察するという、オリジナリティ溢れる手法を考案・適用している(於:北海道十勝総合振興局管内・札内川)。当該装置を用いて長期観測を行い、体サイズを時系列的に解析した結果、生活史ステージの異なる 3 世代が秋・冬期に確認された。また、2 年半かけて成長した後に夏季(6 月と 7 月)に羽化し、河畔で交尾する過程も明らかになった。成虫の寿命が最大 10 日程度であることも考慮すると、イシカリミドリカワゲラは日光が遮られた河床間隙水域で約 3 年程度を幼虫として過ごすという結論に至る(世界初発見)。他方、食物網構造の解析から、同種が河床間隙水域に生息する他の動物(ユスリカ科幼虫やミミズ類)を通年捕食する「2 次消費者」に相当することが分かった。その他にも、成虫羽化のタイミングは河川水温の高い年に早まる傾向があり、多くの水生昆虫幼虫が河床間隙水域を拠り所としているといった新知見も得られている。本成果を発展させることで、河床間隙水域に生息する水生昆虫の生活史に関する理解がさらに深まり、複数種を指標とする温暖化影響予測技術の開発、さらには河床間隙水域の効果的な生物多様性保全施策の創出が期待できる、と述べている。

情報源 北海道大学 プレスリリース(研究発表)
信州大学 トピックス(研究)
機関 北海道大学 京都大学生態学研究センター 信州大学 北海道教育大学 いであ(株)
分野 自然環境
キーワード 食物連鎖 | カワゲラ | 生活史 | 水生昆虫 | 札内川 | イシカリミドリカワゲラ | 河床間隙水域 | hyporheic zone | 河川生態系 | 2 次消費者
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