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 遺伝的多様化に貢献するがリスクも…ヒブナ(緋鮒)の交雑による起源 京大など

発表日:2022.10.21


  京都大学、理化学研究所、釧路市立博物館および美幌博物館などの共同研究グループは、春採湖(所在地:北海道釧路市、周囲4.6 km・最深部6 m)に生息するヒブナの起源を解明した。ヒブナ(成魚)は黄みを帯びた赤色を呈するフナの仲間。春採湖では1922(大正11)年に初めて目撃され、1937(昭和12)年に「春採湖ヒブナ生息地」として国の天然記念物に指定された。「春採湖のヒブナ個体群」として保護されてきたが、約100年の間に個体数の減少が懸念された時期もあり、北海道レッドリストでは「絶滅のおそれのある地域個体群(Lp)」となっている。京都大学等からなる研究グループは、進化生態学的な視座からフナの起源や繁殖様式の理解を進めてきた。多くの生物は有性生殖を行い、繁殖方法として主流化している。しかし、日本人に馴染みの深いギンブナにはクローン繁殖(雌性発生)する個体が見られる。放卵放精の過程において、通常は雌雄から一組ずつ染色体を受け継ぐ2倍体ではなく、3組の染色体をもつ3倍体雌が減数分裂を経ない卵を産むが、その卵の発生の開始には2倍体フナ雄の精子が受精する必要がある。しかしながら、この精子は遺伝的に貢献しないため、産まれる子は雌親のクローンとなる。研究グループではギンブナ(3倍体)に焦点を当て、3倍体の起源や大陸からの侵入時期を特定するとともに、稀に2倍体のフナと有性生殖し、分布域を拡大してきたことを明らかにしている(Mishina, T. et al., 2021)。今回、長年ヒブナの生態調査を継続してきた釧路市立博物館の協力によって、ヒブナのヒレ組織(少量)の取得と遺伝子分析が実現した。春採湖や他のヒブナ生息地、さらにアジアを含むユーラシア大陸に分布するヒブナ・フナについて網羅的な遺伝子分析を行った結果、ヒブナは在来の3倍体(以下「クローンフナ」)と約 100 年前に放流されたキンギョの交雑によって誕生し、その後4倍体を含め多様な進化を遂げてきたことが明らかになった。「春採湖のヒブナ個体群」を巡っては、突然変異によって黒い色素を欠き赤変したとする説と、1916 年に放流された約 3000 尾のキンギョとの交雑を起源とする説が議論されてきた。本成果は後者を支持するものであり、“稀に交雑するクローンフナ”の繁殖戦略と生物多様性に資する役割を補強している。約 100 年にわたる意図せぬ「野外進化実験」と喩え、生物学の重要トピックである「有性生殖の主流化」を紐解く鍵になる事例と見ている。ただし、ヒブナの誕生はキンギョの移入をきっかけとしており、同種の繁栄は在来集団の遺伝的固有性の喪失につながっている。外来種の持ち込みはもってのほかであるが、ヒブナの拡散にも留意が必要、と結んでいる。

情報源 京都大学 Latest research news
理化学研究所 研究成果(プレスリリース)
美幌博物館 お知らせ
機関 京都大学 理化学研究所 釧路市立博物館 美幌博物館
分野 自然環境
キーワード 天然記念物 | 遺伝子分析 | 釧路市 | 進化生態学 | 有性生殖 | 地域個体群 | ヒブナ | クローン繁殖 | 3倍体 | 遺伝的固有性
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