国内ニュース


 100年前の森の姿、実データによる復元とベースライン化の提案

発表日:2023.06.22


  東京大学大学院農学生命科学研究科の日浦教授を中心とする研究グループは、100年前の森の地上部バイオマス(aboveground biomass;AGB)を推定する手法を体系化し、同手法の有効性を実証した。日浦教授は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター在籍当時から、環境省モニタリングサイト1000の一翼を担っている。長年、森林生態系機能の時空間変動に着目した調査研究に取り組み、約40年間のモニタリング成果を踏まえ、北方針広混交林における「針葉樹」の衰退を指摘している(Hiura, T. et al., 2019)。本研究は、さらに長期間の評価、すなわち気候変動や人為的攪乱を受ける前の状態(以下「原生林」)を詳細解析するためにデザインされたもの。「仮施業案説明書(旧北海道帝国大学演習林所蔵)」という手書き冊子の再発見が大きな役割を果たしている。同書には1928~1938年にかけて行われた毎木調査の結果が記載されている(サイト数:480区画、面積:467 ha)。同研究グループは先ず、同書の記載情報をデジタル化し、解析可能なデータ品質を確保することに注力した。次に、得られたデータ(樹種構成や種数、個体密度など)と環境データ(気温、降水量、日射、地形、地質など)を用いて、①当時のAGB推定、②森林全体のAGBに影響を与える環境要因の分析、③AGBと多様性の関係解明を試みた。①~③に関し、構造方程式モデルによる解析を実行した結果、平均AGBは現状と大きな差はないものの、(原生林が多かった)100年前は現在よりも大きな個体が低密度で生育していたことが明らかになった。総じて、まとまった北方針広混交林では、針葉樹の優占度や、その多様性と個体密度が森林全体の炭素貯留量を規定していることが示唆された。先行研究と同様、大学演習林の保続があってこそ成し得た研究であると言える。過去のデータを掘り起こして定量的に解析することが、未来の森林生態系サービスの予測・評価において、ますます重要になってくるであろう、と述べている(掲載誌:Ecological Indicator)。

情報源 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 NEWS
北海道大学 研究発表
機関 東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 北海道大学
分野 地球環境
自然環境
キーワード 気候変動 | 森林生態系 | 炭素貯留量 | 針葉樹 | 毎木調査 | 地上部バイオマス | 人為的攪乱 | AGB | 北方針広混交林 | 構造方程式モデル
関連ニュース

関連する環境技術