北海道大学低温科学研究所を中心とする研究グループは、オホーツク海南部の氷縁域において、ドローンを用いた高解像度観測により、氷盤の大きさや形状の分布を初めて詳細に捉えることに成功した。氷縁域とは、海氷域の外縁部で波やうねりの影響を強く受ける領域であり、季節海氷域の融解過程を理解する上で重要な観測対象である。──近年、北極海やオホーツク海などの海氷域は気候変動の影響により縮小傾向にあり、特に春季の融解過程を正確に再現することが気候モデルの精度向上に不可欠とされている。しかし、従来の衛星観測では分解能の制約から、数メートル以下の小さな氷盤の実態把握が困難であった。
本研究では、北海道大学と第一管区海上保安本部の協力のもと、砕氷型巡視船「そうや」からドローンを飛行させ、解像度2cmの画像を取得。画像解析により、0.2〜10mの大きさを持つ12,100個の氷盤を抽出し、統計的な性質を分析した。その結果、0.9m以上の氷盤には自己相似性(フラクタル性)が認められ、波による破砕の影響が強く示唆された。一方、0.9m未満の氷盤では形状や分布にばらつきが見られ、熱力学的な内部融解が破砕を促進していることが明らかとなった。
これにより、氷縁域の融解は「波による破砕」と「熱による内部融解」の二段階で進行することが示された。これらの知見は、数値モデルへの応用を通じて、季節海氷域の融解予測精度の向上や、春季ブルームの発生予測、さらには船舶航行の安全性向上にも寄与する可能性がある(掲載誌:Polar Science)。