長崎大学と北九州市立自然史・歴史博物館の研究グループは、ニホンウナギ(以下「ウナギ」)の保全に向けたアウトリーチ戦略を提案した。――ニホンウナギ(Anguilla japonica)は、環境省レッドリスト(2025年時点)で「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されている。一方、日本のウナギ消費量は世界全体の約30〜45%を占めるとされ、グルメ情報サイト(ぐるなび)の最新調査によると、日本人の約9割がウナギを「好き」と回答している。
本研究は、全国紙の新聞報道内容を分析し、ウナギに対する市民の認識を調査した。その結果、ウナギの保全を推進するには、「生き物」としての側面だけでなく、「食べ物」としての側面が市民の関心を高める重要な要素であることが明らかになった。研究者は、ウナギの漁獲や消費、個体数の増減に関する話題は、土用丑の日前後に集中して報道されており、この時期が保全に向けたアウトリーチ活動の好機であると考察している。また、近年の低水準な資源状態が定着しつつあることで、過去の豊かな資源状態が忘れられ、長期的な個体数の減少が過小評価される「シフティング・ベースライン症候群(SBS)」の進行も懸念された。さらに、自然の中でウナギと接する機会が減少している一方で、食文化としてのウナギとの接点は維持されており、この偏りが資源状況の正しい認識を妨げる可能性がある。
研究グループは、ウナギの保全に対する市民の支持を得るためには、ウナギを「食べ物」として親しみながらも、その資源状態の危機を正しく伝えることが重要であると提言しており、具体的には、「土用丑の日に合わせた啓発活動」や「自然観察会などを通じた野生ウナギとの接点の創出」が有効であるとしている(掲載誌:Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems)。――国内のウナギ需要は、国産のウナギだけでは賄いきれず、海外産のニホンウナギやアメリカウナギなどで補われている(出典:WWFジャパンら共同調査)。ウナギが絶滅危惧種であることを理解し、おいしくいただける日が未来にも続くよう、ひとりのウナギ好きとして願うばかりである。
情報源 |
長崎大学 プレスリリース
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機関 | 長崎大学 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 絶滅危惧種 | 自然体験 | 資源管理 | 食文化 | ウナギ保全 | 市民認識 | 土用丑の日 | シフティング・ベースライン症候群 | 新聞報道分析 | アウトリーチ活動 |
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