量子科学技術研究開発機構(QST)は、放射線照射と加熱を組み合わせることでテフロン(PTFE)を100%分解を実現し、従来法と比較してCO2排出量をほぼ半減する新技術を開発した。この研究は高崎量子技術基盤研究所のナノ構造制御高分子材料プロジェクトの一環であり、科学技術振興機構(JST)のCREST事業の支援を受けて実施された。
PTFEは、耐熱性・耐薬品性に優れたフッ素樹脂であり、調理器具や電子部品など幅広い用途に用いられている。一方で、原料の蛍石やフッ化水素を海外に依存しており、製造から廃棄までのライフサイクルCO2(LCCO2)排出量が高いことが課題とされてきた。特に、化学的に安定な構造ゆえにリサイクルが困難であり、従来の高温熱分解法では600〜1,000℃の加熱が必要で、エネルギー消費とCO2排出が大きかった。
今回の研究では、PTFEに電子線を照射しながら370℃まで加熱することで、5メガグレイ(MGy)の線量で100%分解が可能であることを実証した。1トンのPTFEを処理する場合、必要なエネルギーは2,169 kWhで、従来法の4,200 kWhと比較して約48%削減できる。これにより、CO2排出量は約859 kg削減され、電気料金も約5.5万円低減できる(QST試算)。また、分解により得られる生成物には、冷媒や医薬品原料としても利用可能な有機フッ素化合物が含まれており、資源循環の観点からも有望である。――今後は、分解条件の最適化と生成物の高収率化を進め、企業との連携によるパイロットスケールでの実装を目指すという。