東京大学大学院工学系研究科の辻健教授らの研究グループは、大気中から直接回収された低純度の二酸化炭素(CO2)を地中に貯留する際の効率と経済性について、分子動力学(MD)シミュレーションを用いて評価した。この研究では、CO2に含まれる窒素や酸素などの不純物が貯留効率に与える影響を定量的に分析し、新たな指標「不純物依存貯留効率(NSEI)」を提案した。
DAC(Direct Air Capture:直接空気回収)は、設置場所の制約が少なく、ネガティブエミッションの実現に向けた有望な技術とされるが、CO2の高純度化には多大なエネルギーコストがかかる。従来の地中貯留(CCS)では90%以上の高純度CO2が用いられてきたが、本研究では不純物を含むCO2の貯留可能性を分子レベルで検証した。
研究では、20〜120°C、60〜320気圧の条件下でCO2の密度変化を解析し、濃度低下に伴う非線形的な密度減少がファンデルワールス力に起因することを明らかにした。また、世界各地のCCS実証プロジェクト(アイスランド、米国、ノルウェー、中国、日本)にNSEIを適用した結果、地質条件により貯留効率に大きな差があることが判明した。さらに、米国Cranfieldでは、低純度CO2でも高い貯留ポテンシャルが確認された。回収コストと貯留効率のトレードオフ分析から、CO2濃度70 mol%が経済的に成立する地中貯留の最低純度であることが示された。この濃度は、貯留効率の屈曲点としても機能し、実用的な設計指針となり得ると考えられた。
本成果は、DACとCCSを組み合わせたスタンドアローン型CO2削減システムの設計にも応用可能であり、砂漠地帯や海洋プラットフォームなどへの展開も視野に入る。研究グループは、不純物を含むCO2の貯留がCCSの社会実装を加速させる可能性があるとし、今後の技術開発において重要な指針となると述べている(掲載誌:Communications Engineering)。