弘前大学の相馬純助教は、小笠原諸島に生息するグンバイムシ(植物を摂食するカメムシの一群)について、形態的特徴に基づき識別可能な8種の固有種を確認した。これらは3新種と5既知種で構成されており、各種は寄主植物や分布する島が異なっていた。
小笠原諸島は「東洋のガラパゴス」とも称されており、陸貝・昆虫・植物の固有種率が極めて高い。特に昆虫では、島ごとに外観の似た異なる種が分布する例が知られており、種分化の要因解明が進化生物学的にも注目されている。グンバイムシは特定の植物のみを摂食する性質があり、寄主植物と分布域の違いが種分化に与える影響を検証する材料として適している。
今回発見された固有種のうち、ムニンイヌグスやコブガシを摂食する種は、それぞれ異なる島に分布していた。分布域と寄主植物の空間的遺伝構造が一致する例もあり、種分化の背景に植物との関係が強く影響している可能性が示唆された。一方、外来種グリーンアノールによる捕食圧が固有昆虫の減少要因とされており、グンバイムシもその影響を受けている。オガサワラグンバイは市街地でも多産しているが、ムニングンバイやハハジマグンバイは限られた島でしか確認されておらず、相馬助教は「生息状況の把握と保全が急務」であるとしている。
本研究は、海洋島における固有昆虫の種分化研究に必要な基盤を整備したものであり、今後は分子系統解析などの展開を通じて、グンバイムシが進化生物学の優れた研究材料として位置づけられる可能性がある。これにより、小笠原諸島の世界自然遺産としての価値向上に資する知見の蓄積が進むと見られている。――本研究は環境省および環境再生保全機構の環境研究総合推進費、ならびに日本学術振興会科研費の助成を受けて実施された。
【補遺】グリーンアノールはアメリカ原産の樹上性トカゲで、体色が緑から茶色に変化することから「アメリカカメレオン」とも呼ばれる。小笠原諸島では特定外来生物として定着し、在来昆虫への捕食圧が生態系に影響を与えている。
情報源 |
弘前大学 TOPICS
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機関 | 弘前大学 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 外来種 | 固有種 | 自然遺産 | 種分化 | グリーンアノール | 生物多様性保全 | 海洋島 | 寄主植物 | 空間的遺伝構造 | 昆虫多様性 |
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