ノースカロライナ⼤学グリーンズボロ校の照井助教、北海道立総合研究機構の卜部研究主幹、北海道大学の先崎助教らの研究チームは、漁業や釣りの対象となる在来種の大量放流(以下「意図的放流」)に一石を投じる研究成果を発表した(掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences, DOI:10.1073/pnas.2218044120)。放流(広義)は在来魚の保全に役立つものと理解され、環境教育の一環として、地域のメーンイベントとして親しまれてきた。しかし、放流に由来する種内の遺伝的撹乱をはじめ、全国各地で放流の悪影響が指摘されるようになり、国はひとたび飼育環境下に置かれた在来種の不適切な放流を止めるよう呼びかけている。本研究では、在来種放流の影響評価に関する理論構築を図るとともに、「意図的放流」の持続可能性を評価し、今日的視座からサケ・マス資源管理の新方向を提示している。具体的には、シミュレーション(理論分析)と実河川で取得した長期データ解析(実証分析)の二つのアプローチを併用して、魚類群集に対する放流の影響を明らかにしている。理論分析は、放流対象種 1 種とほか9種の魚類群集の生態的特性と、それら10種が「特定の環境で継続的に⽣息できる最大数(環境収容力)を組み合わせたシナリオ(全32パターン)に基づいている。毎年放流を想定した場合、ほとんどのシナリオで放流による種間競争の激化、放流対象種以外の種を排除するマイナス効果が確認され、密度(⿂類群集全体・放流対象種・他種)や種数が⻑期的に低下すると推計された。実証分析には、保護水面(根拠法:水産資源保護法)に指定された河川の⿂類群集データ(調査地:北海道、調査期間:1999~2019年、サクラマス放流数:0〜24 万匹/年)を使用している。統計モデルを⽤いて密度等を推定したところ、理論分析を支持する結果が得られた。“放流しても魚は増えない”と訴えかけ、「環境収容力」の増強と自然生態系のバランスに配慮した「持続的な天然資源管理」の重要性を強調している。
情報源 |
北海道大学 プレスリリース(研究発表)
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機関 | ノースカロライナ大学グリーンズボロ校 北海道立総合研究機構 北海道大学 国立極地研究所 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 在来種 | 資源管理 | 放流 | 自然生態系 | 遺伝的撹乱 | 種間競争 | サクラマス | 環境収容力 | 保護水面 | ⿂類群集 |
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