和歌山工業高等専門学校のスティアマルガ・デフィン准教授は、東京大学総合研究博物館、千葉県立中央博物館、島根大学との共同研究により、日本沿岸に生息する巻貝「スガイ(Lunella coreensis)」の遺伝的多様性と進化史を明らかにした(掲載誌:Limnology and Oceanography Letters)。
本研究は、博物館に収蔵された標本を用いて、ミトコンドリア遺伝子(COIおよび12S)を解析し、氷期と海流の変動が遺伝的分化に与えた影響を定量的に評価したものである。 スガイは浮遊幼生期間が短く、分散能力が中程度であるため、海流の影響を受けやすい種とされる。解析の結果、日本のスガイは黒潮と対馬海流の影響により、太平洋系と日本海系に大きく分かれることが判明した。さらに、約3,000年~77,000年前の氷期に遺伝的分化が進行し、特に最終氷期(約18,000年前)以降に急速な放散が起きたことが示された。これらの結果は、日本の化石記録とも一致しており、過去の気候変動と海流変化が海洋生物の多様性形成に大きく関与していたことを裏付ける。
本研究は、過去の環境変動が海洋生物の遺伝的構造に与える影響を明らかにすることで、気候変動下における生物の適応能力や保全戦略の検討に資する知見を提供する。特に、氷期における遺伝的孤立と再接続のメカニズムは、現代の海洋環境変化に対する応答を予測する上で重要な指標となる。
研究チームは、今後の海洋生物多様性研究において、スガイをモデル種としたスケレオクロノロジー(硬組織年代学)への展開を視野に入れており、標本データはGenBankに登録済みである。